将来はAIチートが登場するかも?
『Valorant』にほとんどチーターがいない理由
戦略性の高い対戦型FPSゲームとして高い人気を誇る『Valorant』は、eSportsとしても世界的に盛り上がりを見せている。
一般的に、競技性の高いマルチプレイゲームはランクシステムが導入されており、プレイヤーの技能レベルに近い相手がマッチするようになっている。しかし、このようなゲームでは、自分の腕前を向上させるよりも、不正なツールを使って相手を倒し、ゲーム内で目立とうとするいわゆるチーター(Cheater)と呼ばれる類いのプレイヤーがどうしても現れる。
プレイヤー同士がイコールな環境でなければ、対戦ゲームは成立しない。過去には、チーターが蔓延った結果、サービス停止に追い込まれたゲームがたくさんあった。リリース当初はプレイヤーの評判も良く有望だった『The Cycle: Frontier』が、チーターの問題に対処しきれず、1年数か月でサービスを終えたのも記憶に新しいところだ。
こうした問題に対処するため、多くのゲームではアンチチートと呼ばれる不正ツール検知プログラムを導入している。しかし、チート開発者はアンチチートを解析してこれを回避するツールをすぐに作り上げてしまうため、思うような効果が上がっていないのが実情だ。
そんななか、異彩を放っているのがRiot Gamesの『Valorant』だ。5対5のチーム対戦型FPSであるValorantでは、2020年のリリース以来、ほとんどチーターの問題を聞くことがない。チーターがまったくいないわけではないが、このゲームのアンチチートシステムは非常に強力だとされている。
Valorantのアンチチートシステム『Vanguard』は、ゲームが動作するWindowsのカーネルレベルで動作するドライバーを使用している。カーネルとは、WindowsなどOSのソフトウェアとハードウェアの間の橋渡しをする、中核的な部分のことだ。Valorantはカーネルレベルで動作することで、PCのメモリーに本来あるはずのないもの、つまりチートプログラムがValorantにアクセスしたことを検知できるのだという。ひとたびチートプログラムの検知ができれば、あとはチーターがそれを使うのを確認するだけだ。
Valorantのアンチチート担当責任者であるフィリップ・コスキナス氏は、The Vergeのインタビューに対し、Vanguardのしくみは非常に単純だが、すぐにこれを回避するチートが出てくる可能性があるので説明はできないと述べている。Vanguardの効果は高く、ゲームの動作を改変して障害物の向こうにいるライバルを透視する「ウォールハック」や、自動的に相手に武器の照準を合わせる「エイムボット」などが使われることはほとんどなくなった。
そして、Vanguardが強力であるために、最近はValorantを実行しているPC上で動作するチートプログラムはほとんどなくなり、専用のハードウェアを使うチートシステムに移行しているのだそうだ。このシステムでは、ゲームを実行するのとは別にチート用のセカンダリーPCを用意し、ゲームが動作するPCに追加したPCIe拡張カードを通じて、そのゲームの物理メモリーをスキャン、ゲームマップ上の対戦相手の位置を正確に把握してチーターのゲーム画面に表示するのだという。
Riot Gamesは、そのようなハードウェアレベルのDMA(ダイレクトメモリーアクセス)チートに対処する方法もすでに開発済み。信頼できるハードウェアとファームウェアのリストに照合し、問題のあるアクセスがあればすぐにそれを検出できるようになっている。
Varolantがチーター対策で成功している理由は、Riot Gamesがアンチチートシステムに十分な資金を投入し、優秀な人材を雇用しているためだ。Riotは過去にチートを開発していた人などをエンジニアとして雇い入れ、そのスキルと知識を対策に活用している。コスキナス氏本人も、過去には学費を稼ぎ出すためにチートを作り、販売していたとのことだ。
現在も、Valorantにおけるチート行為は撲滅には至っていない。Valorantにおけるチート行為の80%は現在、ゲームのプレイ画面を読み取り、プレイヤーの照準に敵が重なった瞬間に自動的に銃を発射する「トリガーボット」が占めているという。コスキナス氏は最新のチートシステムの流れは、画像読み取りの方向に向かっていると述べた。
また、コスキナス氏は不正行為と不正検知の両方にAIが導入される可能性についても言及している。プレイヤーがどのようにゲームの操作を行っているかを大量のデータによって教え込まれたAIがチートに使われれば、明らかなチート操作を発見するのが困難になるかもしれないとコスキナス氏は予想している。
- Source: The Verge