首の皮一枚といったところ

ボイジャー1号との交信が一時途絶。43年ぶりにバックアップ通信機が起動

Image:NASA/JPL-Caltech

1977年に打ち上げられたNASAの探査機ボイジャー1号は、2012年に太陽圏を脱出し、現在は星間空間と呼ばれる、恒星と恒星の中間の領域を航行している。

しかし、さすがに47年も宇宙を航行していると機器の老朽化は免れず、電気を供給する放射性同位体熱電気転換器(RTG)の出力も低下した状態では、地球との通信も困難になってきている。実際、一昨年~昨年にかけては5か月もの間、NASAの管制とボイジャー1号との間のコミュニケーションが途絶えるという危機的状況もあった。

このときは、NASAはフライト・データ・サブシステム(FDS)と呼ばれる通信機器の異常を特定し、データを地球に送信するための「パッケージ化」処理を行う信号経路を組み替えるという技を駆使することで、幸いにも通信を復活させることができた。

今年9月には、燃料タンク内のゴム製ダイヤフラムが劣化してスラスター内の配管の一部に詰まるという問題も発生したが、チームは数週間かけて別のスラスターを使用可能な状態にする作業を行い、探査機のアンテナを正確に地球の方向に向ける能力を回復させている。

Image:NASA/JPL-Caltech

だが、今年10月16日、管制チームがNASAのディープ・スペース・ネットワーク (DSN) を通じてコマンドを送信したところ、ボイジャー1号からの応答が返ってこないという問題が発生した。

管制チームは、またもや片道約23時間という気の遠くなるようなタイムラグと戦いながら、ボイジャー1号に何が起こっているのかを調べることになった。そして、探査機が通常使用するXバンド送信機が、何らかの理由によって作動した障害保護システムによってその出力を低下させたことを突き止めた。幸いにも、ボイジャー1号はそれ以外については安定した状態にあるようだった。

だが、10月19日になるとボイジャー1号は完全に通信を停止した。管制チームは、ボイジャーの動作を細かく検証し、障害保護システムが複数回作動してXバンド送信機をオフにした可能性があることを発見した。その推測が正しければ、ボイジャー1号はデータの送信をSバンドと呼ばれる、Xバンドとは異なる周波数帯を使うバックアップ通信機器に切り替えた可能性がある。

Sバンド通信機器を行った通信は1981年を最後に行われていない。さらにバックアップ用であるため、その出力はXバンドに比べてはるかに弱い。さらに240億km以上も離れた地上でその電波を掴めるかどうかは不明だった。それでも、DSNのエンジニアはなんとかその非常に弱い信号を探し当てることに成功した。

チームはせっかく掴んだSバンドの信号を失わないため、不用意にXバンド通信を復活させるのではなく、Sバンド通信が正常かどうかをまず確認した。そして、現在はこのバンドを使って慎重にボイジャー1号を正常な状態に戻すための情報収集を続けているとのことだ。

現在、恒星間空間を航行している探査機はボイジャー1号と2号だけだ。NASAのチームは技術的かつ複雑な問題に対処し奮闘しつづけているが、いずれも老朽化が進み、RTGはあと数年で寿命が尽きると予想されている。今後これらの探査機に発生する問題は、そのどれもが探査機の最後を意味ものになる可能性がある。少しでも長く探査機が運用され、少しでも多くの貴重なデータが送り届けられることを祈るばかりだ。

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