ゲームメーカーが導入するにはまだまだ時間がかかりそう
ゲーム内の住人とChatGPTで無限に会話ができるMODが登場。音声にも対応
これまでのゲームにおいて街の住人(NPC=ノンプレイヤーキャラクター)は決まりきったことしか話さない存在だった。セリフに変化が起きることはあるが、魔物を退治する、好感度が上がる、メインストーリーに大きな展開があるなど、たいていは何らかの条件を満たした場合だけだった。
そんななか、人気ゲーム『Stardew Valley』や『The Elder Scrolls V:Skyrim』にAIを導入し、理論上は無限に会話できるMOD(改造データ)が注目を集めている。
まず『Stardew Valley』用としては、牧場の仲間たちとテキストを自由に入力して会話できるMOD「Speaking Valley」が公開された。MODのオンラインプラットフォームNexus Modsのコメント欄では、ユーザーから「素晴らしい」、「今年最高の改造のひとつ」との声が寄せられている。
このMODは、OpenAIのAPIに接続して機能している。NPC達との会話は一つ一つは自然だが、一方で限界もある。すべてのキャラクターが、ChatGPTのキャラクター設定において「陽気」な性格に寄せられてしまうのだ。
たとえばテントに住む不機嫌な住人ライナスは、最初こそぶっきらぼうに「ほっといてくれ」という。が、もう一度クリックするとユーザーを「友人」と呼び、「自然の美しさに安らぎを感じてくれていると嬉しい」と語る。また別の住人パムは「毎日が同じ繰り返し」とぼやいたかと思えば、「私もあなたと同じくらい季節を楽しんでいると嬉しい」と陽気に方向転換するという具合だ。
そもそもStardew全般が陽気なゲームであり、特に全員と仲良くなった後はなおさらだ。ひたすらに上機嫌な会話をしたいプレイヤーには合うとしても、それ以外は飽きが来るのも速そうである。
こうした限界は、『Skyrim』のAIコンパニオン(旅を共にしてくれるNPC)MODである「Herika」ではあまり目立たない。Herikaは一般的なコンパニオンと同じくプレイヤーについて回り、戦闘などを支援する。さらに、会話の相手にもなってくれるわけだ。
プレイヤーは会話をキーボードからテキストを打ち込むことも、音声入力でも利用できる。AIはゲーム内のマップやクエスト、主要機能も理解しているうえに、個性も設定できる。つまり、ある程度は型に嵌めつつ定型とは異なるスタイルの会話も可能である。
Reece Meakings氏とTylermaister氏が共同開発したHerikaは、元々はSkyrimに関連の膨大な書籍を要約するツールとして始まり、本格的なAIコンパニオンへと拡張された。さらに、あらゆるNPCをAIコンパニオン化するフレームワークに発展させるつもりだという。
しかし、Meakings氏はAIがゲーム開発に広く使われるようになるには、まだ時間がかかると考えている。まず第一に、これらAI MODはお金がかかるからだ。Speaking ValleyもHerikaもOpenAIのAPIを使うため、会話を1行生成するたびに数十円がユーザーに請求される。
もしもゲームメーカーが企業単位で実装する場合は、APIに接続したり、独自のサーバーを準備および運営するコストは、すべてのプレイヤーに分担させるか、個別に料金を請求するかで賄う必要があるだろう。
また、AIと人々とのやり取りは無限に発散して「ゲームの設計方法が完全に変わる」とMeakings氏は言う。開発者は会話ツリーやスクリプトトリガー(特定の条件やイベントが発生した場合、あらかじめ設定したプログラムを実行すること)によるリニアな制御ができなくなり、物語や世界観の構築において考慮していなかった可能性が急速に広がる。
AIはNPCの会話を豊かにできても、それにスクリプトが柔軟に対応する方法がない。また、有志によるMODであれば許容される不適切な表現も、企業にとっては大問題を起こす可能性があるとも指摘している。
- Source: The Verge