アップロードをアーティストIDで管理しておけば…

Spotify、既存アーティストのページに多数の“ニセアルバム”が混入する問題で苦情

Image:Mykolastock/Shutterstock

現在、音楽ストリーミングサービスSpotifyにおいて、既存のアーティストと同名のアカウントがアルバムをアーティストページに紛れ込ませ、ユーザーに誤って再生させることで再生回数を稼ごうとする行為が急増している模様だ。

Ars Technicaは読者からのタレコミ案件として、フランスデ1960年代から活動しているベテラン・プログレッシブロックバンドGongのSpotifyページに、同じアーティスト名の見慣れないアルバムが公開されているという事例を伝えている。Gongのファンは、バンドが昨年、最新アルバムをリリースした後にツアーを開始したことを知っていたが、SpotifyのGongのページに表示された「最新リリース」アルバムはそれではなく、2024年リリースだという見たこともないセルフタイトル作品だったという。

Gongのファンは、作品のカバーアートからしてGongのそれとはまったく異なるローファイ・ラウンジビート的な音楽だったため不審に思い、試しにそれを再生してみて、やはり目当てのバンドとは何もかもまったくちがう別物だと確信したとのことだ。

同じ頃、昨年3月まで10年にわたりSpotifyのデータ分析を担当していたというグレン・マクドナルド氏は、X(旧Twitter)への投稿で「Ancient Lake Records」、「Beat Street Music」、「Gupta Music」というレコードレーベルから実在アーティストの名をかたる「ジャンクアルバム」が合計で何千作品も公開されているとSpotifyに報告した。マクドナルド氏は他にも「Future Jazz Records」が数百作品をアップロードしたと述べた。

また、ニセアルバムが見つかったアーティストはほかに、YesやAsiaといったブログレ勢のほか、ダブステップのCyclops、ソウルバンドのMazeなどが報告されている。

マクドナルド氏は、これら大量のこれら大量のジャンクアルバムは、すべて単語一語のアーティスト名がランダムに付けられていることから、作品の所有者はおそらく、それらが既存のアーティストページに掲載されるとは思っておらず、そのページを乗っ取ったり、人気に乗じることを意図していなかったのではないかとの見解を述べている。

そして、「アーティストのIDではなくアーティスト名のみで作品を提出した場合、それらの名前をアーティストページと一致させるのはストリーミングサービス側の問題であり、既存アーティストの作品と違うことに気づかなかったサービス側に責任がある」とした。

マクドナルド氏によるX経由の報告の後、Spotifyの広報担当者はArs Technicaに対して「問題を認識しており、問題のコンテンツを移動し、提供ライセンサーに対するさらなる選択肢を検討中」だとコメントした。そして「悪質な行為者がシステムを悪用しようとしていることを特定または警告された場合は再生数の削除やロイヤリティの差し止めといった措置を講じる。Spotifyは、悪質な行為者が不当にロイヤリティを徴収しようとするのを検出・防止し、その影響を軽減するために、自動および手動のレビューに多額の投資を行っている」と主張した。

マクドナルド氏はArs Techncaに対し、Spotify勤務時代には「リリースが公開される前にこの種のことを監視するためのダッシュボードをいくつか維持していた」と語った。しかし、いま多くの不正行為が検知されていないように見えることから、自身が去った後のSpotify が「それらのツールを稼働させていなかった」のではないかと推測しているとした。

ここ最近は、生成AIによって簡単に音楽を作ることが可能となり、今回のようなストリーミング詐欺的行為へのハードルも以前とは比べものにならないほど下がっている。ただ、ストリーミングサービスも詐欺防止チームを強化しており、音楽ストリーミング詐欺で利益が得られる可能性は以前よりは低下しているはずだ。

しかしそれでも、SpotifyはGongのような月間リスナー数何万人規模のアーティストからの直接の申し立てには、迅速に応答できていないようだ。もしかすると、YesやAsiaなどの、よりメジャーなアーティストへの対応が優先されているのかもしれない。人気あるアーティストのほうがユーザーが再生する回数も多く、偽物が検出されやすいことも関係していそうだ。

Spotifyのサポートページには、アーティストがフォームを使用して、自分の音楽に「他のアーティストの音楽が混ざっている」ことをサービス側に報告できる。ただ、アーティストよりもユーザーのほうがサービスを通じて音楽を聴く機会は多いはずであり、ユーザーがこのような作品の紛れ込み案件を報告できるようにする仕組みも必要かもしれない。

ちなみに、Spotifyで同名異アーティストの作品が同一ページに表示される例は珍しいことではなく、数年前にはSkid Row、Mr.Bigといったバンドや、クイーンのブライアン・メイなどのページで発生していたのを見た人もいるだろう。さすがに最近では是正が進んでいると思われるが、再生回数の少ないアーティストの場合はいまも発見・報告されない混同が多々あるのかもしれない。

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