発売から12週間だけDRM保護すれば普通のユーザーにもうれしい結果に?

ゲームの海賊版は売上を約20%減らすとの調査結果。特に発売直後のダメージが深刻

Image:alexskopje/Shutterstock.com

著作権を侵害する違法コピー、いわゆる海賊版は、長年にわたりゲーム業界を苦しめている。が、実際にどれほどの悪影響を与えるかをめぐっては、多くの議論が交わされてきた。

海賊版ダウンロードはすべて海賊版が存在しない世界で記録されていたはずの「失われた売上」に数えるべきだとの主張から、逆に海賊版の利用者はそもそも正規版に支払うつもりがなく、逆に口コミによる宣伝としてプラスと考えるべきだという声まで、両極端に分かれている。

そんななか、DRM保護が守られたゲームと破られたゲームを比べることを一種の自然実験(社会の中で自然に発生する事象を利用して因果関係を調査する方法)として、「海賊版が利用できることは、発売から毎週平均19%程度の比例収益損失を意味する」との研究結果が発表されている。

査読付き学術誌『Entertainment Computing』に掲載された論文「PCゲームにおけるDenuvoデジタル著作権管理の収益効果」では、米ノースカロライナ大学の研究員ウィリアム・ボルクマン氏が、2014年9月~2022年末までにSteamで初リリースされた86本のDenuvo(ゲーム開発者がゲームに組み込めるDRMソリューション)保護ゲームを対象にしている。

これらサンプルには、少なくとも12週間(ほとんどのゲームにおいて新規の売上が「無視できるほど」落ち込む傾向のある期間)Denuvoの保護が持続したゲームや、初期にクラック(DRM保護破り)されて広範囲にわたり海賊版が出回ったゲームともに多く含まれている。

Image:Entertainment Computing/William Volckmann

研究として重要な点は、海賊版の存在や出回るタイミングが、価格やレビュアーの評価スコアなどから上手く予測できないということだ。

これにより海賊版の存在は「実質的に外生的な事象」となり、「著作権侵害のない世界(Denuvo破りが生じる前)」と「著作権侵害が蔓延する世界(海賊版が出回った後)」で、ゲームの売上を効果的に切り離せる。あたかも2つのパラレルワールドが存在するかのように、である。

またゲームごとに海賊版が登場する時期が異なるのも、相対的な分析に役立つ。「発売日直後の収益が最も高いため、その時期に登場する海賊版は収益に不釣り合いなほど大きな影響を与える」とのことだ。

もっとも、ほとんどのゲームは一般公開している販売データの質が十分ではないため、収益への影響を直接測ることは難しい。そこでVolckmann氏は、発売後における週ごとの相対的な売上減少を推定するために、Steamの新規ユーザーレビュー数と、1人プレイでストーリーゲームの場合はの平均アクティブプレイヤー数を組み合わせたプロキシ指標を用いている。

これら基礎データにいくつかのな統計モデルを適用した結果、海賊版の登場から数週間内の相対的な収益は、海賊版の出ていないゲームのベースライン予想よりも低いことが判明した。この悪影響は統計的に非常に有意(p<0.01)であり、「海賊版の出現により、海賊版のない場合と比較して、相対的に収益が減ることを意味する」と分析している。

そしてパブリッシャーが海賊版により失うと予想される金額は、クラックされるまでの時間により大きく左右されるという。すなわち発売後の第1週にクラックされたゲームは、DRMが有効な場合よりも、収益が約20%減少するとのことだ。

その一方、クラックが発売から6週間後であれば、予想される損失は総収益の推定5%に留まる。さらに12週間後には、新規販売が無視できるほど少なくなるため「最終的に開発者は最小限の損失で、不人気のDRMスキームを削除できる」と提案している。

実際、新規販売が増える見込みがなくなった一部のパブリッシャーが、それを実践したこともある

DRM保護があればゲームの読み込み時間が長くなったり、フレームレートが低下することもあり、ユーザーには不評である。発売から12週間、およそ3か月後にDRM解除版を提供すれば、購入済みのプレイヤーにもメリットが大きそうではある。

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