それでも当局はトンネルの延長をすすめます
イーロンマスクのテスラトンネル、2年で67件の無断侵入。ラスベガスの渋滞解消効果も不明
イーロン・マスク氏のトンネル掘削会社The Boring Company(TBC)は2021年、ラスベガス・コンベンションセンターの地下に掘ったトンネルとテスラ車を使ったシャトル型の交通システムVegas Loopを開始した。
このサービスは当初、未来的な自動運転バスがトンネルや地上の停留所を巡回するサービスとしてラスベガスの交通渋滞を解消し、人々にスムーズな移動手段を提供すると考えられていた。
だが実際のところ、オープンしたVegas Loopはドライバーが運転するテスラ車が地上~地下トンネルの停留所をまわる、巡回式乗り合いタクシーのような形態だった。しかも実質的には、このシステムは地上の交通にはほぼ何の変化も与えていない模様だ。
現在、Vegas Loopトンネル交通システムはコンベンションセンターで行われる会議出席者のみに開放されており、一般人は利用できない。ただ、ボーリング社はコンベンションセンターの管轄区域のすぐ外側にも駅を開設し、運営を開始したが、これらのルートは既存のトンネルシステムとつながっており、こちらは無料ではなく有料で利用できる。
Fotune誌が情報公開法に基づきラスベガス観光局などへの調査を行ったところ、2022年からこれまでの間に、この交通システムは専用のトンネル内に一般車両などが不法に侵入した問題が67件も発生しており、ほかにも物的損害、盗難、技術的問題、負傷、ニアミスなどの問題がTBCから報告されていたことがわかった。
一般車両による侵入は、どうやら前方を走るテスラ車の後ろを走行していたクルマが、何も考えずに追走した結果トンネル内に入ってしまった例が多いようだ。一方、歩行者などによる問題は、地下の停留所からトンネル内に忍び込んだスケートボーダーや、停留所を寝床にする者、トンネル内に入ってくるクルマのナンバープレート読み取り機器を盗もうとする者などが報告されている。いずれも警備員がそれらを発見しては取り押さえ、地上へ送り返したとのことだが、警察に通報したか否かの記録は残っていないという。
Vegas Loopに関しては、トンネル掘削中の頃から現場作業員が危険に晒されながら仕事をさせられていたことも伝えられている。TBCの従業員が今年2月にFortune誌の取材に応じた際には、その一人が「われわれは常に死と隣り合わせだった」と述べている。昨年の6か月のあいだにTBCは労働安全衛生局(OSHA)に熱中症、打撲傷、手や肘の粉砕骨折などを含む災害発生を36件も報告したとのことだ。OSHAネバダ支局には、トンネル内で(おそらくセメント硬化剤を使った)作業中に、薬剤が発火し、20人前後の従業員がやけどを負ったとも報告された。
ただ、こうした問題の数々にもかかわらず、ネバダ州クラーク郡当局は昨年5月、テスラ車を走らせるための地下トンネルを総延長65マイル(約105km)にまで延長し、停留所を69箇所にまで増設する計画を承認したとのことだ。