「地上に戻ればやるべきことが山積みだが、ここからは完璧な世界が見える」

初の民間のみでの宇宙遊泳、SpaceXのPolaris Dawnプログラムが実現

Image:SpaceX(X)

9月12日、大富豪のジャレッド・アイザックマン氏とSpaceXは、民間人だけで行われている有人宇宙ミッションPolaris Dawnプロジェクトにおいて、最も歴史的なイベントとなる宇宙遊泳(船外活動)を行った。

民間宇宙飛行士のみのミッションであるPolaris Dawnプロジェクトは5日間にわたって行われており、今回の宇宙遊泳はその中日、3日目に行われた。もちろん民間飛行士だけでの宇宙遊泳は今回が初めてのことだ。

ミッションのために資金を投じた大富豪で、プロジェクトのリーダーであるアイザックマン氏は、Crew Dragon宇宙船のハッチを開けて身体の大部分を外に乗り出し、眼下に地球を望みつつ「地上に戻ればやるべきことが山積みだが、ここから見る地球は確かに完璧な世界に見える」と述べた。

ライブ配信された映像では、アイザックマン氏の後にもSpaceXのエンジニアであるサラ・ギリス氏が宇宙空間に浮かぶ様子が映し出され、宇宙船の外でSpaceXの新しい宇宙服がどのように機能するかについてもコメントした。この宇宙服は、SpaceXの表現で言うと「布でできた鎧のようなスーツ」で、地球軌道上の過酷な環境から身体を守りつつも、軽量かつ柔軟な動きを実現しているという。

だが、SpaceXはこれまでに、この「スペーススーツ」を宇宙環境下で試験したことがなかった。実際のところ、Polaris Dawnプロジェクトは、この宇宙服のテストも兼ねて行われており、SpaceXはこのテストによって安全性を確認し、将来地球周回軌道だけでなく、深宇宙ミッションが行われるようになったときに、これを主要なミッションで使用することを目指している。

アイザックマン氏は、打ち上げ前の8月26日に、このスーツに関して「これをテストする機会を得たことは、非常に名誉なことだと思っている」「いつの日か、誰かがこのスーツを着て火星を歩いているかもしれない」と述べていた。

このミッションに使用されているCrew Dragon宇宙船もまた、通常とは異なりこのミッションのために設計されたハシゴ付きの「Skywalker Hatch」を採用している。このハッチのおかげで、飛行士らは宇宙船の外に出て船外活動を行うことができた。

ただ、Crew Dragon宇宙船にはエアロックがないため、船外活動を行うためにハッチを開けると、船内がすべて真空状態になってしまう。そのため、飛行士らは皆、減圧症にならないため、打ち上げの後宇宙空間に出てから2日間にわたり減圧症を回避するための「予備呼吸」を行う必要があった。

SpaceXは、こうした船体や宇宙服のテストだけでなく、31もの機関から依頼を受けた36種類の科学実験をミッションを通じてこなしている。これらの実験のなかには、NASAのHuman Research Programにデータを提供し、人体が宇宙飛行にどのように反応するかを理解するのに役立つ実験なども含まれている。

これは、お金持ちがチケットを購入して、宇宙観光をして返ってくる簡易なミッションとは一線を画するものだ。NASAのHuman Research Program担当者は「Polaris Dawnミッションで収集された情報は、NASAが月や火星へのより深い宇宙旅行を計画するのに役立つ重要な洞察を与えてくれるだろう」とこのミッションに対してコメントしている。

ちなみに、このミッションでCrew Dragon宇宙船は最高高度1400.7kmを記録している。これはNASAのジェミニ11号による地球周回軌道における有人宇宙船の高度記録1373kmを更新する新記録で、アポロ計画以来、最も地球から遠ざかった有人飛行記録だ。

Polaris Dawnは6日目に地球に帰還する予定となっている。

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