複製した数、誰かに聴かせて得た金額なども報告義務

「世界一の嫌われ者」、複製したウータン・クラン「幻のアルバム」の引き渡しを命じられる

Image:Ben Houdijk_Shutterstock.com

ニューヨーク東部地区連邦地方裁判所のパメラ・K・チェン判事は、元ヘッジファンドおよび元製薬会社CEOのマーティン・シュクレリに対し、ヒップホップグループ「Wu-Tang Clan(ウータン・クラン)」の世界に1セットしか存在しないCDボックスセット作品『Once Upon A Time In Shaolin』の予備的差止命令を出した。シュクレリは金曜日までに弁護士に対してこの「幻のアルバム」の複製物を引き渡さなければならない。

判事はまた、シュクレリがアルバムのコピーをすべて引き渡したという宣誓供述書を8月30日までに提出し、作成したコピーの存在、それを誰と共有したか、そしてコピーやアルバムを誰かに聴かせることで得た金銭について、9月30日までに書面で提出するよう命じた。

この命令は現在のアルバムの所有者が、シュクレリがこのアルバムから「不適切に保持されたデータやファイルのコピー」を所持しており、それを公開する予定であると主張して起こした裁判に関連するものだ。

マーティン・シュクレリは若くして投資会社などで業績を上げた。その後、自身が立ち上げたチューリング・ファーマシューティカルズを通じて特許が切れているもののジェネリック製品も存在しなかったトキソプラズマ症治療薬Daraprim(ダラプリム)の製造販売権を取得し、独占流通状態としたうえで、1錠あたりの価格を13.5ドルから約55倍の750ドルにつり上げ、多額の資産を得た。当然ながらこの価格変更は大きな批判を浴び、シュクレリは人々から「Public enemy No.1(世界一の嫌われ者)」、「Phama bro」などと呼ばれるようになった。

そうしたなか、シュクレリが手に入れたのが、ウータン・クランが6年の歳月をかけ、(物理的に)世界に1セットしか存在しない2枚組ボックスセットアルバム『Once Upon A Time In Shaolin』だった。このアルバムはウータン・クランのメンバーであるRZAによってすでにマスターデータが消去されており、名実ともに世界で1セットしか存在しない幻のアルバムだ。

RZAはこの作品が現代アートとして扱われることを希望し、2015年にオークションに出品する際には、この作品を所有する者は「2103年(製作から88年間)までは商業的に利用してはならない」という契約に従うことを条件とした。約200万ドルを投じて『Once Upon A Time In Shaolin』を入手したシュクレリは、購入者として自身の素性が世間に知れ渡った結果、幻のアルバムと共に世界中の音楽ファンの反感も買うことに成功している。

その後、シュクレリは投資家に繰り返し嘘をつき、さらに自身が運用し失敗した2つのヘッジファンドから数百万ドルを不正に得ていたとの主張で起こされた裁判に負け、証券詐欺罪で服役。このとき、判決でシュクレリに対して下された約740万ドルの没収判決に関連して、米国司法省がアルバムを売却したことを明らかにしている

なお、司法省からこのアルバムを入手した新オーナーは、NFT投資グループのPleasrDAOであることが判明している。PleasrDAOの広報担当者は、アルバムを購入したことについて「ミュージシャンやアーティストの仲介業者や利権追求者に対する究極の抗議」と述べ、アルバムをシュクレリの手から救出したと主張した。そしてPleasrDAOはこのアルバムをより広く公開できるようにしたいとの考えを示している。ただしそれは一般公開を禁じるという購入者ルールによって制限されている(ただし一部の無料試聴などは可能なようだ)。