ワープテスト15分前!

「ワープ航法の痕跡の捉え方」説明した研究論文が発表される

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宇宙もののSFアニメや小説では、宇宙船で長距離を瞬時に移動するワープ航法のシーンが登場することがある。当然ながらこれは架空の技術なのだが、物理学者のなかには、何十年もこの移動方法の実現可能性を研究している者もいる。

もし、現実的にワープ航法を実行しようする場合、宇宙船の周囲の時空をバブル状に切り取り、その前方の時空を縮めると同時に後方を膨張させることでバブルの空間的座標を超光速で動かすことが可能だという理論がメキシコの物理学者ミゲル・アルクビエレ氏によって提唱されている。

ただし、アルクビエレ氏の説を実現しようとする場合、光の速度で移動するバブルを発生させるには、現在観測できる全宇宙に存在するよりもさらに大きな負のエネルギーが必要になるなど、現代人類の科学力では不可能な問題がいくつかある。

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現在の科学力ではワープ航法の実現は不可能ではあるものの、ロンドン大学クイーン・メアリー校、ポツダム大学、マックスプランク重力物理研究所(MPI)、カーディフ大学からなる研究チームは、宇宙空間でワープ航法が使用されたときに発生する重力波をシミュレートし、それを調査する方法を研究し、Open Journal of Astrophysicsに発表した。

新しい研究では、もしもどこかで誰かがワープ航法を使用した場合に、使用済みのワープバブルが壊れる「格納容器機能喪失(containment failure)」と呼ばれる現象が起こった際に放出される重力波信号を計算し、流体のエネルギー束を追跡している。ロンドン大学クイーン・メアリー校のケイティ・クラフ博士は、「ワープドライブは純粋に理論上のものではあるものの、アインシュタインの一般相対性理論で明確に説明でき、数値シミュレーションによってそれが重力波の形で時空に及ぼす影響を調べることができる」と説明している。

研究の結果では、ワープバブルが壊れたときに明確な重力波バーストが発生することがわかった。重力波は通常、ブラックホールと中性子星が合体したときなどに検出される「時空のさざ波」とも称される現象だ。しかし、ワープバブルの崩壊で生じる重力波は非常に短い高周波のバーストであるため、現在の検出器の性能では検出できないという。

ただ、ワープバブル崩壊時の重力波バーストを構築する技術はすでにあるという。現在はそれを構築するには莫大な費用がかかるため、実現は難しいが、将来的にはより高周波の検出器が登場し、宇宙のどこかで実行されたワープドライブの証拠を探せるようになる可能性はある。

この研究は、時空と重力波に関する理解の限界を押し広げるものと言えるだろう。クラフ博士は「この研究は、理論的なアイデアが宇宙を新たな方法で探究するきっかけになるということを思い出させてくれる。何かが見えるかどうかについては懐疑的だが、見る価値があるほど興味深いものだ」と述べている。

研究者らは今後、異なるワープドライブモデルでバブルがどのように変化するかを調査し、光速を超える速度で移動するバブルが崩壊するケースを調べる予定だとしている。現実に光速を超えるワープ航法が実現できるのかはわからないが、それを調べることで少しずつでも実現に近づいて行くのなら、われわれの夢のバブルも膨らむ話と言えそうだ。

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