他人にどう見られるかではなく、自分の下手さを自覚するから
人はなぜ赤面するのか?下手なカラオケで明らかにした研究成果が発表
事前に録音した演奏に合わせて歌うカラオケは日本から世界に広まったサブカルチャーであり、「Karaoke」という英語も定着している。音程を外して歌うと頬が赤らんでしまうのも、国境を越えた体験のようだ。
そうして赤面することは、他人にどう見られているかという社会的な認知からではなく、自分の中での感情の高まりのためであると、下手なカラオケを歌わせて検証した研究結果が公開されている。
アムステルダム大学のミリカ・ニコリック氏が率いる研究チームは、カラオケを歌っているビデオを見た被験者を調査した結果、赤面とは特定の感情が喚起された反応だと結論づけている。これまで赤面反応は、自分が他人にどのように認識されているかを考えるなど、高度な社会認知プロセスに関連していると推測されていた。
研究チームは、赤面とは「人が脅威を感じ、逃げ出したいと思うと同時に、あきらめたくない衝動に駆られるときに起こる、高レベルのアンビバレントな感情覚醒の結果」だと、英生物学研究ジャーナル『Proceedings of the Royal Society B』に掲載された論文で述べている。
被験者となったのは、下手なカラオケを歌う自分を見て赤面する可能性が高い人達だ。思春期の女の子は、大人よりも自意識が強く、他人から評価されることに敏感な傾向がある。
さらに研究チームは、音楽の専門家が難しいと判断した4曲から選曲してもらうようにした。アデルの『Hello』、映画『アナと雪の女王』の『Let it Go』、マライア・キャリーの『All I Want For Christmas is You』、t.A.T.u.の『All the Things You Said』であり、被験者の歌声はビデオに録画された。
2回目の検証では、被験者はMRIスキャナーに入れられ、自分自身や他の人がカラオケを歌っているビデオを見せられた。自分が歌っているビデオ15本と、同じような歌唱力と思しき人物の15本である。
もう1つの仕込みは、参加者に変装したプロの歌手のビデオだ。一般的にプロの方が歌がうまいため、二次的な(リアルタイムではない)恥ずかしさを引き起こす可能性は低かった。
計測されたのは、頬の温度上昇である。過去の研究では血流測定が用いられていたが、誤差が生じやすかったためだ。これには高速応答温度トランスデューサー(表面温度の変化を高速で測定する機器)が使われている。
そして温度が上がったのは、被験者が自らが歌うのを見たときだけだった。他人を見ているときはほとんど上昇も低下もなく、プロの歌手を見ているときはわずかに低下した。つまり、二次的な恥ずかしさは他人では起こらず、上手い歌唱には逆反応を起こしたというわけだ。
さらにMRIにより、自分のカラオケビデオを見るときに、脳のどの部位が活性化されるかが明らかになった。それは恐怖、不安、恥ずかしさなどに反応する前部の島皮質であり、情動的・認知的に伊丹を管理し、予測あるいは嫌悪・回避に反応する中帯状皮質もあり、恐怖や不安の処理を助ける背外側前頭前皮質も含まれていた。
また脳内で感情処理の大部分をになう小脳でも、活性化が検出された。自分のカラオケビデオを見せられて赤面しているときは小脳の活動が最も強まっており、感情が大きく動いた可能性があるようだ。
研究チームにとって意外だったのは、自分の精神状態を理解するプロセスに関与するはずの部位に活性化がなかったことだ。これは、他人が自分をどう思われているかとの認識が、赤面と無関係である可能性を示している。
つまり赤面とは、本人がやっていることを自覚したときに起こる感情の高まりだということだ。大勢の人の前であがるのも、自分の下手さをより深く痛感するためであり、社会性を織り込んだ複雑な思考とは関係ないのかもしれない。
- Source: Proceedings of the Royal Society B
- via: Ars Technica