CNC加工機みたい
全自動のロボット歯科医、初めて人の歯を治療成功。人間より手早く正確
もし、自宅の近所にロボットが治療してくれる歯科クリニックができたと聞いたら、いくら生身の歯科医より腕が立つと言われても治療してもらいたいと思うだろうか。誤動作したときにどうなるかを想像してしまうと、とてもそこへ行く気にはならないかもしれない。
しかし、米ボストンを拠点とするロボットベンチャーのPerceptiveは、AI技術、光干渉断層撮影(OCT)技術、ロボット工学を駆使して、実際に人間の歯科医よりも迅速に治療を終わらせる歯科医ロボットの開発を発表した。ボランティアの被験者を使った実地試験で、人間の歯科医が行うよりも短時間で治療を完了できたという。
この歯科医ロボットは、OCT技術とAIによって歯、歯茎、さらには歯の表面下の神経まで含む口の詳細な3Dモデルを作成し、約90%の精度で歯の中の空洞を自動的に検出する。ちなみに、歯科治療プロセスで一般的な、レントゲン(X線)写真による状況判定の精度は、30%程度とのことだ。またOCTであれば患者の放射線への暴露もなくすことができる。
歯の状況がわかれば、歯科医ロボットはその3Dデータに基づいて治療プロセスを決定し、実行に移す。たとえば歯冠(クラウン)を被せる治療の場合、歯の上部を削り取り、歯の型を取って冠をぴったり歯に密着するように加工するなど数段階の処置を行うため、通常なら複数回の通院が必要になる。だが、Perceptiveのロボットは、それを1度の通院で完了できるようになっているとのことだ。
もちろん、安全性には最大限の注意が必要だ。歯科用とはいえ、高速回転するドリルをロボットが自律的に患者の口腔内に突っ込むわけで、患者が不用意に動いてしまったりすれば大けがをしかねない。
そこで、ロボットによる治療の場合は、バイトブロックと呼ばれる、いわば「つっかえ」になるものを口の中に入れ、患者が力を入れずとも口を開けたままにしておけるようにする。ロボットのアームはバイトブロックに物理的に接触して動作し、患者の頭部が動いても接触点を通じてアームの位置も誤差数十マイクロメートルの精度で調整される。そのため、正確に位置決めができる。逆に言えば、多少なら患者が頭を動かしても、ロボットは安全に治療を継続できる。
さらに安全対策として、歯科医が操作するフットペダルがある。Perspectiveのロボットはこのフットペダルが踏まれている状態でなければ、治療を続行できない。つまり、治療の作業そのものはロボットが行うが、常にそばで医師が監視している状況だ。万が一、誤作動などがあった場合は、即座に医師が治療を中断させられる。
Perspectiveは、ロボットは作業が早く、治療結果もより良くできると述べている。われわれの認識では、歯の詰めものや被せものは、5年も持てば良いものだが、ロボットによる治療では、加工時の形状の正確さから、詰めものや被せものがより正確に密着し、長持ちするのだそうだ。
ただ、Perceptiveはこの歯科医ロボットのボランティアを使っての試験的な治療には成功したが、まだこの歯科医ロボットが市場出る準備は整っていない。当面クリアしなければならないのは、まずFDAの承認を得ることだ。これにはさらに臨床試験を重ねる必要があり、うまくいけば、その後「数年」を経て一般にも使えるようになるとメーカーは見積もっている。
- Source: Perceptive(Busines Wire)
- via: Popular Science IEEE Spectrum