四肢麻痺患者が操作できる

Apple Vision Pro、「脳コンピュータインターフェース」操作に成功

Image:Synchron

アップルの空間コンピュータ「Apple Vision Pro」(以下、Vision Pro)は視線でのポインタ操作やハンドジェスチャーに対応しているが、逆にいえば「手」を動かせることが前提となっている。物理的なハンドコントローラーはないものの、完全なハンズフリーを実現しているわけではない。

そうしたVision Proを、「脳コンピューターインターフェース(BCI)」技術により、脳から直接操作することに成功したとスタートアップのSynchronが発表した。筋萎縮性側索硬化症を患う64歳の男性、マーク氏が実演しているビデオを公開している。

BCIとは、人間の脳と外部のコンピューター機器を接続するインプラント技術のことだ。近年ではイーロン・マスク氏のNeuralinkが、四肢麻痺患者が考えるだけでノートPCを操作できるようになったと宣伝していた。ほか、世界最多となる4096電極を被験者に埋め込んだというPrecision社も記憶に新しい

この技術により、マーク氏はVision Pro画面上のカーソルを操作し、ソリティアをプレイしたり、「Apple TV+」を観たり、テキストメッセージを送信している。その間、声も出さず手を全く動かさずにカードを移動させたり、文字入力していることが確認できる。

マーク氏は昨年8月にBCIを埋め込んで以来、週に2回、様々なスキルや機器の操作を練習している。Vision Proでの操作の感想は、iPhoneやiPad、PCを使うのと似ているとのことだ。さらにMR体験は非常にインパクトがあり、四肢の自由を失った人々が「二度と見たり経験できるとは思わなかった場所」に連れて行ってくれると語っている。

SynchronのBCIは、低侵襲の血管内手術により運動皮質表面の血管に埋め込むものだ。そして脳からの運動意図を検出し、その信号をワイヤレスで外部機器に送信することで、ハンズフリー操作を実現している。抽象的な思考ではなく、手や指を動かす信号をデバイスに直結しているわけだ。

同社のCEO兼兼創設者であるTom Oxley氏は「Vision Proは強力なシステムだが、UIを操作するためには手のジェスチャーに頼っている」と指摘。そして「タッチや発話を必要としないヒューマン・コンピュータ・インタラクション(人とコンピュータとの相互作用)のための新たなBluetooth標準を目指している。これは何百万人もの麻痺患者にとって非常に重要なアンメット・ニーズ(いまだに治療法がない疾患に対するニーズ)である」と語っている。

SynchronはBCIの応用範囲を拡大するため、より大規模な臨床研究の準備を進めている。現状では米国で6人、オーストラリアで4人の患者にBCIを埋め込み済みだ、引き続き、BCIの商業化をすべく、米国食品医薬品局(FDA)の承認獲得を目指しているとのことだ。

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