動かすまでの環境設定が面倒
アップル、iPhone/iPad用PCエミュレータを初承認。古いDOSやWindowsゲームがプレイ可能
アップルが初めて、iPhone/iPad/Vision Pro用のPCエミュレータ「UTM SE」をApp Storeで公開することを承認した。このアプリを使えば、昔のWindowsやMac OSなどのゲーム等を楽しめるようになる。
今年4月、アップルはApp Storeガイドラインを改定し、レトロゲームのエミュレータを許可するようになった。本体には含まれていないゲームを後からダウンロードする形のアプリが配布可能となり、任天堂ハードを網羅する「Delta」やPSPゲームに特化した「PPSSPP」など、次々とゲームエミュレータがApp Storeに登場している。
しかし、PCエミュレータアプリ「UTM SE」は、6月にアップルの審査により却下されていた。本家App Storeばかりか、EU限定の代替アプリストアでも配布が認められなかったのである。
当時、アップルは「PCはコンソール(ゲーム専用機)ではない」ためと説明していた。UTMのようなPCエミュレータを使う人々の最大の動機の1つが、レトロゲームをプレイすることであるにもかかわらずだ。この決定は広く反発を招き、欧州委員会が介入する可能性も浮上していた。
しかし、先週末にUTM SE開発者は、App Storeや代替アプリストアでの配信が認められたことを報告した。急きょ方針転換にいたった理由につき、アップルからの説明はないようだ。
オープンソースのCPUエミュレータQEMUに基づくUTMは、x86やPowerPCからRISC-VやARM64まで「30以上のプロセッサ」のサポートを誇っている。そのApp Store版であるUTM SEは、VAグラフィックモードとテキストベース端末の両方で「クラシックなソフトウェアと昔ながらのゲームを実行できる」と謳っている。
ただし、ゲームを遊ぶより前に、レトロPCのOSが動く環境を自前で用意する必要がある。その手引きは公式のページにまとめられているが、かなり複雑な手順を踏むことになり、もちろん正規のWindowsインストール用ISO(ディスクイメージ)等も調達しなければならない。
すでにiPadOSのステージマネージャによりDeltaとUTM SEを同時に立ち上げ、『スーパーマリオ64DS』を動かしつつPC用ピンボールを楽しんでいるユーザーもいたりする。
もう1つの注意点は、今回のApp StoreバージョンはJITコンパイラを使っていないことだ。
JITコンパイラは、手短にいえば「異なるアーキテクチャのCPUをエミュレートする際に、高速に動かす仕組み」である。ほとんどのPC/レトロゲーム機エミュレーターには頼もしい存在だが、アップルはEU圏内のブラウザアプリを除き、使用を許可していない。
その結果、UTM Discordでは「(UTM SEの)SEはSlow Edition(遅いエディション)の略だ」と評されている。またLinuxを試したユーザーの1人は「犬のように遅い」「不機嫌な体験」だと愚痴をこぼしているほどだ。
ゲームキューブ/WiiエミュレータであるDolphiniOSの作者は、JIT抜きでは使いものにならないとしてApp Storeでの公開を断念していた。それでもUTM SEが公開に踏み切ったのは、古いMS-DOSやWindows 95時代のタイトルであれば十分に動くと判断したためかもしれない。
- Source: App Store
- via: Ars Technica