やはり『Fortnite』は動かず

「Snapdragon X Elite」搭載PC、実際どうなの? 注目の「Copilot+ PC」実力チェック!

「ASUS Vivobook S 15 S5507QA」

Microsoftが5月に発表した、次世代AI PCとなる「Copilot+ PC」。その第1弾製品が、6月18日に各社から発売された。

6月初めに開催された「COMPUTEX TAIPEI 2024」では、AMDからもCopilot+ PCの要件を満たす「Ryzen AI300シリーズ」が発表されているが、6月18日に発売されたのは、どれもCPUにArmベースの「Qualcomm Snapdragon X Elite」を採用したモデルだ。

ArmベースのWindowsというと、2020年に発売されたSurface Pro Xを思い出す人もいるだろう。SnapdragonをカスタマイズしたArmベースのMicrosoft SQ1を搭載しており、当時としては珍しくLTE通信を標準装備していた。

ただし当時はソフトウェアの互換性が乏しく、まともに動作しないソフトウェアが多かった。Snapdragon X Eliteの搭載を聞いたときに、やはり互換性が気になった方も多いのではないだろうか。

今回、ASUSから発売された「ASUS Vivobook S 15 S5507QA」を試用する機会があった。そこで、Snapdragon X Eliteを搭載したCopilot+ PCがどの程度使えるものなのか、簡単に確認してみたのでその内容をお伝えしよう。

ただ、残念ながらCopilot+ PCの目玉機能であるRecall(回顧)は、一般提供が延期となってしまった。このため、Copilot+ PCらしい機能についてほとんど試せていないので、そこはご容赦願いたい。

スペックの確認

まずは、ASUS Vivobook S 15 S5507QAの基本的なスペックを確認しておこう。Copilot+ PCとはいえ、CPUがSnapdragon X Eliteということ以外、仕様的には通常のWindowsノートPCと変わるところはない。

ディスプレイは15.6インチの有機ELで、解像度は2880×1620ドット。リフレッシュレートは最大120Hz。HDR規格のDolby Visonにも対応している。DCI-P3 100%の色域に対応し、DisplayHDR True Black、PANTONE、TÜV Rheinlandの各認証も取得している。

ディスプレイ上部には207万画素のWEBカメラを搭載。物理的なプライバシーシャッターも付いており、使わない場合には閉じておくことが可能だ。なお、Windows Helloでの顔認証も利用できるが、プライバシーシャッターが閉じていると認証できないので注意しよう。

▲WEBカメラには物理シャッターが搭載されている(下が閉じた状態)。ただし、閉じているとWindows Helloの顔認証も利用できないので注意しよう

10キー付きのキーボードには、Copilotキーも搭載。RGBバックライトに対応しており、好みの色で光らせることが可能だ。なお、試用機ではWindowsの設定アプリからカラーを変更したが、今後のアップデートによりMyASUSアプリから変更が可能になるとのことだ。

▲キーボードは10キー付き。主要なキーはキーピッチが約19mm確保されている。適度な反発と相まって、打ちやすいキーボードだ
▲右下にはCopilotキーを搭載している

インターフェースは、HDMI×1、USB 4.0×2、USB 3.2 Gen1(Type-A)×2、microSDカードリーダー、3.5mmジャック。無線関連はWi-Fi 7とBluetooth 5.4に対応している。Snapdragon搭載ということで、LTE通信を期待したいところだが、残念ながら非対応だ。

▲左側面(写真上側)にはHDMI、USB 4.0×2、microSDカードスロット、3.5mmジャック。右側面(写真下側)にはUSB 3.2 Gen 1×2を搭載

アプリの互換性は思った以上に良好

実際にいくつかのアプリを動作させた様子もお伝えしよう。冒頭にも書いたが、ArmベースのSnapdragon X Elite搭載ということで、やはりアプリの互換性が気になるところだ。

まずブラウザだが、EdgeとChromeはARM版が用意されており、問題なく利用できる。動作についても、IntelやAMDのプロセッサを使っているのと変わらず、特に遅いなどの印象もない。

当然ながらMicrosoft 365も問題なく動作する。ただ、タスクマネージャーで見てみると、「ARM64(x64互換)」という表示になっていた。少し調べた限りでは、Arm64ECという仕組みを利用したもので、見かけ上はARMアプリ、内部的にはx64アプリとして動作しているようだ。

▲Microsoft 365アプリは内部的にはx64コードで動作するArm64ECという仕組みを利用しているようだ

サードパーティのIME関連では、Google日本語入力は、エラーが出てインストール自体行えなかった。ATOKはインストールできたものの、EdgeブラウザやエクスプローラーではATOKを使って日本語入力することができないという挙動になっていた。Wordでは問題なく入力できたので、Arm版アプリには入力できないのかもしれない。

▲Google日本語入力は、エラーが出てインストールすることができなかった

クリエイティブ関連では、AdobeのPhotoshop、Lightroom Classic、Premiere Proは問題なくインストールし利用することができた。Premiere Proについては、従来はArmプロセッサでは動作しなかったようだが、Copilot+ PCの発表時にArmプロセッサのサポートが発表されていた。

ただし、実際にインストールされるのはx64版だ。なお、PhotoshopとLightroomはArm版が動作していた。IllustratorのArmプロセッサ対応も発表されているが、執筆時点ではインストールすることができなかった。

▲Premiere Proは上記の表示がでるが、インストールされるのはx64版だ

また、Windows純正のペイントには、Cocreatorが搭載されている。Copilot+ PCの専用機能というわけではないが、いち早く利用できるのは利点の1つだろう。ペイントで簡単な絵を描き、Cocreatorに書きたい画像のプロンプトを入力すると、描いた絵を元に目的の画像を生成してくれる。プロンプトは日本語でも入力できるが、現状では英語のほうが精度は高いようだ。

▲純正のペイントにはCocreator機能が搭載されている。「The Cat」と指定したところ、適当に描いた絵が猫のイラストに変換された

ゲームの互換性はアンチチートが鬼門

ゲームに関しては、Epic Gamesの『フォートナイト』は起動できなかった。これはアンチチートプログラムの問題のようだ。

▲フォートナイトを始め、アンチチートプログラムを利用しているものは、上記のエラーで起動できなかった

Qualcommによると、ARM64にネイティブ対応していないゲームの場合、x64コードをARM64コードに変換(エミュレート)して動作させることができるとのこと。ただし、不正防止のために一部のゲームに採用されているカーネルレベルのアンチチートドライバーは、エミュレーションでは動作しないとのことだ。この問題のため、『フォートナイト』はSteam Deckでもプレイできない。

同じく、Steamの『Apex Legends』『ELDEN RING』も起動時にエラーとなってプレイできなかった。すべてのゲームを確認したわけではないが、オンライン対戦要素が強いゲーム(ようするにアンチチートプログラムが入ったゲーム)は、ARM64にネイティブ対応するまではプレイが難しいと思って良さそうだ。

ちなみに、Steamの『バイオハザード:RE2』は起動し、プレイすることができた。もっとも、動作は重く快適にプレイできるとは言い難い。

ベンチマークで実力を確認

ベンチマークも取ってみたので、結果を掲載しておく。参考として、以前に取得した「ASUS Vivobook S 15 OLED BAPE Edition」(Core i5-13500H、RAM16GB)のベンチマーク結果が手元にあったのでそれもあわせて確認しよう。

なお、ASUSのノートPCといえば、MyASUSアプリでファンモードの変更が可能になっているが、Copilot+ PCの本機にも搭載されている。今回は、すべてデフォルトのスタンダードモードで計測している。

▲MyASUSアプリからファンモードの変更も可能

まずCPUの性能を測る「Cinebench R23」だが、マルチコアで「9834pts」、シングルコアで「1105pts」となった。Core i5-13500HのASUS Vivobook S 15 OLED BAPE Editionが、マルチコアで「9674pts」、シングルコアで「939pts」だったので、ほぼ同等の性能のようだ。ちなみにCinebench R23はx86版だったので、エミュレートしてこのスコアというのは、なかなか優秀といっていいだろう。

▲CINEBENCH R23の結果

PCの総合的な能力を測るPCMark 10は、残念ながらArm非対応とのことで起動しなかった。

▲PCMark 10はArm非対応ということでベンチマークを起動できなかった

グラフィック性能を測る3Dmarkの結果は下記の通りだ。Core i5-13500H(ASUS Vivobook S 15 OLED BAPE Edition)よりもグラフィック性能は高めの結果となっている。

▲3DMarkの結果

試しに、ベンチマークとしては負荷が高めな「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITIONベンチマーク」を実行したところ、軽量品質で解像度1920×1080のフルスクリーン設定では「3216(普通)」、解像度を1280×720に落としたところ「5903(やや快適)」となった。ASUS Vivobook S 15 OLED BAPE Editionでは、それぞれ「2982(やや重い)」と「4227(普通)」だったので、やはりグラフィック性能は高めのようだ。

▲FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマークの結果。設定次第では意外と遊べるゲームも多そうだ

Snapdragon X Elite搭載のCopilot+ PCを、ゲーム性能に期待して購入しようと考えている人はいないだろうが、これだけのスコアがでるのなら、アンチチート非搭載という条件は付いてしまうが、設定次第ではある程度のゲームはプレイできそうだ。

Copilot+ PCらしさを感じられるよう、今後に期待

テック系のメディアとしては、「生成AIの未来を少しでも早く感じたいなら、Copilot+ PCは買いだ」と締めるべきなのかもしれない。だが、いまのところ肝心のCopilot+ PCとしての機能が出そろってはおらず、AI部分の評価はなんとも難しい。高速なNPUを搭載しているとはいえ、そのNPUを活かせるアプリもあまりない。

ただ、Office系のアプリやAdobe系のツールを使う限りでは、互換性の問題もほぼ感じることなく、IntelやAMDのCPUを搭載した端末とほとんど変わらず使うことができるはずだ。であれば、現状あえてCopilot+ PCを選ぶ必要もないのではというのが筆者の偽らざる感想だ。

このあたり、目玉機能の一つであるRecall(回顧)の使い勝手や評価次第という気もするので、早く使ってみたいところだ。

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