2画面ノートには可能性を感じる
注目の「2画面ノートPC」、試して分かった“搭載してほしい要素”
今では珍しくはなくなり、ミドルクラスでも登場した折りたたみスマートフォン。2018年に世界初の折りたたみスマートフォン「ROYOLE FlexPai」が登場した際には、正直なところ、ここまで普及するとは考えていなかった。
そんな折りたたみ方式は、スマートフォンだけではなくノートPCにも広がってきた。Lenovoの「ThinkPad X1 Fold」やASUSの「Zenbook 17 Fold OLED」などだ。ただしスマートフォンとは違い、あまり普及はしていないように思う。
その理由は、ノートPCではもともと画面が大きいために「広げて1画面」の需要が少ないのか、あるいは構造が複雑で高額になることなのか。製造難易度が高く、いろいろなメーカーが気軽に参入できないということもあるのだろう。
その代わりに、最近では「2画面ノートPC」が増えてきた印象がある。Lenovo「Yoga Book 9i」やASUS「Zenbook Duo」などだ。
通常のノートPCではキーボードがある面もディスプレイになっているというもので、文字入力などはソフトキーボードや外付けのキーボードを利用する。折りたたみ方式と比べて構造が簡単なためか、いくつかの中国系メーカーも参入しており、国内でも10.5インチの2画面ノートPC「DEEKU」がGREENFUNDINGでクラウドファンディングを実施するなど、徐々に盛り上がりを見せ始めているところだ。
とはいえ、ただ2画面にしただけではノートPCとしての使い勝手が悪くなるだけだ。ガジェットとしての “浪漫” はあるが、それ以外のメリットをあまり感じない。個人的にAliexpressで10.5インチの2画面ノートPCを購入してみたところ、その思いが強くなった。今回、その10.5インチ2画面ノートPCと、ASUSのZenbook Duoを比較しつつ、2画面ノートが備えて欲しい要素とはなんなのかを考えてみたい。
10.5インチの2画面ノートPC「TOPTON L15」
まず、購入した2画面ノートPCについて簡単に紹介しておこう。この製品のレビューというわけではないので、基本的な仕様の確認のみにとどめている。なお、Zenbook Duoについては、ASUSより実機を借りて試している。
今回購入したのはTOPTONのL15というモデル。購入時の価格は、Aliexpressで5万7000円ほどだった。TOPTONは、多くの人にとって馴染みがないかもしれないが、ミニPC好きには割と知られたブランドだ。公式サイトに並んでいる製品に、どこかで見覚えがあるという人も多いだろう。現在販売されているミニPCは、TOPTONを傘下に持つDongguan Tuofuton Electronic Technologyが供給元となっているものも多い。
そのTOPTON L15は、10.5インチ 1920×1280ピクセルの画面を2つ持つノートPC。ディスプレイを360度背面に回せる2-in-1スタイルだ。
CPUにはIntel N95を搭載。最近はIntel N100を搭載したPCが増えているが、N95も十分に実用的な性能を持つCPUだ。RAMは8GB/16GB/32GB、ストレージは128GB/256GB/512GB/1TB/2TB。筆者が購入したのは16GB/512GBモデル。インターフェースはUSB Type-C×2、USB-A(USB 3.0)×2、mini HDMI、3.5mmオーディオジャック、DCポート。残念ながらUSB PDによる充電には対応していない。
Windows PCとして問題なく利用できる製品だが、2画面ノートPCとして使いやすいかというとこれは別の問題だ。そう感じた理由は大きく2つある。
仮想キーボードの出来は2画面ノートPCにとって重要
まず1つ目はキーボードの問題だ。2画面ノートPCは物理キーボードを搭載していないため、文字入力が必要な場合には仮想キーボードを使うか、Bluetoothキーボードなどを利用することになる。TOPTON L15は、この仮想キーボードが非常に使いにくい。
TOPTON L15が利用する仮想キーボードは、Windows標準のものであり、専用のキーボードは用意されていない。Windows標準の仮想キーボードと言えば、すぐに利用できるタッチキーボードを思い浮かべる人が多いと思うが、TOPTON L15に限らず、2画面ノートPCではWindows標準のタッチキーボードは使い物にならない。
2画面ノートPCの理想としては、手前側(下側)画面にタッチキーボードを表示し、上側画面で文字入力を行うスタイルだろう。しかし、Windows標準のタッチキーボードは、複数のディスプレイがある場合には入力するディスプレイのほうに表示されてしまう。このため、常に下側画面にタッチキーボードを表示しておくことができず、上画面で入力を始める(画面をタッチする、マウスでクリックする)とキーボードが上側画面に表示されてしまう。これは、Windowsがもともと2画面でのタッチキーボードの利用を想定していないためだろう。
ではどうするかというと、Windowsに搭載されているもう一つの仮想キーボード「スクリーンキーボード」を利用する。このキーボード、もともとはタッチ操作を想定したものではなく、マウスで画面上のキーボードを操作するためのものだが、タッチ操作も行える。
ただし「スクリーンキーボード」は、キーボードが使えない場合に一時的な代替え手段として利用するものだ。そのためタッチキーボードと違い、入力欄をタッチすると自動で表示されるということはなく、メニュー(Windowsメニュー > すべてのアプリ > アクセシビリティ > スクリーンキーボード)から選択するか、ショートカットを作成して起動する必要がある。
あくまでもマウス操作で利用する想定なので、タッチ操作に最適化されているわけではない。このためキーボード右側の機能ボタンなどを非表示にすることはできず、メインのキー表示が若干小さくなってしまう。
これに対してASUSのZenbook Duoは、仮想キーボードがしっかりと作り込まれているのが好印象。Windows標準のスクリーンキーボードとは違い、入力欄をタップするとキーボードが表示されるほか、6本指で画面をタップすることでもキーボードを表示可能だ。
キーボードは画面の下半分に表示したり、画面いっぱいにタッチパッドも含めて表示したりできる。画面いっぱいに表示するスタイルだと使い勝手は通常のノートPCと変わらない。だったら、普通のノートPCを使えばいいのではという意見もあるだろうが、それはその通りではある。ただ、必要な時にすぐに2画面使えるというのは大きなメリットだ。
またZenbook Duoは、物理的なキーボードとして専用のBluetoothキーボードが付属する。下側画面の上に重ねられ、そのままノートPCを閉じることもできる。通常は、先に書いた下側画面いっぱいにソフトウェアキーボードを表示するよりも、この専用キーボードを重ねた状態で使うことのほうが多いだろう。
もちろん、TOPTON L15もBluetoothなどの外付けキーボードを利用できる。ただ、ノートPCとは別にキーボードも持ち運ばなければいけないので、10.5インチという小型サイズで持ち運びに便利というメリットがスポイルされてしまうのが難点だ。
2画面を活かすにはスタンドが必須
物理キーボードの利用方法にも絡むのだが、2画面ノートPCではスタンドの有無も使い勝手を決める大きな要素となる。
2画面ノートPCで外部キーボードを使う場合、下側画面に重ねて1画面として使うのなら別だが、通常はPCの手前に外部キーボードを置くことになるだろう。ただ、そのままでは下側画面が見づらい。画面を見やすくするためには、なんらかのスタンドを使って立てかける必要がある。机が狭くて手前にキーボードを置けないという場合にもスタンドは有用だ。
TOPTON L15は、一般的なミニノートPCを2画面にしただけなので、底面は通常のノートPCと同様でとくに工夫などはない。このため、立てかけるためのスタンドを持ち歩く必要がある。
一方、ASUS Zenbook DUOは、底面にキックスタンドを備えており、単独で自立させることができる。これにより、奥行きが狭い机などでも2画面を活かしつつ外付けキーボードを利用できる。
今後の成熟に期待したい
ほかにも、2画面ノートPCに絶対必要という要素ではないが、ASUS Zenbook Duoはウィンドウの表示画面をフリック操作で移動できたり、5本指で広げる操作をすると2画面にまたがってウィンドウを拡大できたりと、細かな使い勝手が良く考えられている。
この辺りはソフトウェア的に後から対応も可能だと思うが、ASUS Zenbook Duoは2画面搭載ということで放熱機構なども専用のものを開発しているとのことだ。TOPTON L15がそこまで作り込んでいるのかはわからないが、もともと発熱が少ないIntel N95なので、熱関連が問題になることは少なそうではある。
もし、TOPTON L15の仮想キーボードが作り込まれている、あるいは挟んだまま持ち運べるキーボードがあり、2画面を活かすためのキックスタンドを内蔵していたなら、評価は大きく変わるのではないかと思う。普段は持ち運びに便利なミニノートPCとして利用しつつ、必要に応じて画面が広いノートPCとして使うといった使い分けも可能だっただろう。
残念ながら、現状ではそうなってはおらず、スタンドやキーボードを合わせて持ち運ぶくらいなら、13インチのノートPCを持ち運んだ方が利便性ははるかに高そうだ。ただし、2画面ノートPCには、こうした不便を甘受してでも使いたい思わせるガジェットとしての魅力があることは確かだ。
まだまだ黎明期と言えるカテゴリーだけに、今後2画面ノートPCを出すメーカーには、単に2画面にするだけではなく、その2画面を活かすための使い勝手もぜひ考慮してほしいところだ。