責任あるAIを否定するものではないけれど

AIは「人間の創造性に対する攻撃」、200人超えるアーティストが公開書簡に署名

Iamge:Kathy Hutchins/Shutterstock.com

Artist Rights Alliance(ARA)が、AI業界のリーダーたちに対し一部のAIは「人間の創造性に対する攻撃であり、阻止しなければならない」とする公開書簡を発表した。ARAは、ビリー・アイリッシュ、ニッキー・ミナージュ、J・バルヴィン、ケイティ・ペリー、スティービー・ワンダー、Pearl Jam、ジョン・ボン・ジョヴィ、フランク・シナトラ、そしてボブ・マーリーの遺産管理団体に至るまで、200を超えるアーティストや団体からなっている。

この書簡でアーティストらは「責任あるAI」は「人間の創造性を促進」するものであることを認めつつ、アーティストの同意がないまま既存の音楽を使用していると説明。AIモデルのトレーニングにあたり、「創造性を妨害し、アーティスト、ソングライター、ミュージシャン、作品の権利者を弱体化させるためにAIを利用している」一部のプラットフォームや開発者、団体を非難した。

そして、そのようにして強化されたAIモデルが「アーティストに支払われるロイヤルティプールを薄め」「ミュージシャンたちにとって壊滅的」な損害を与える可能性があるとした。

音楽製作におけるAIの使用が議論を呼んだ例としては、2023年10月にGhostwriterなる人物がAIボイスフィルターを使い、ドレイクやThe Weekendの声をそっくり模倣、新しい楽曲を歌わせた件が挙げられる。これは世界的な話題になり、AI生成のディープフェイクだとは気づかず、YouTubeやTikTokでの再生回数も非常に伸びる結果になった。

AIでアーティストの歌声を模倣することに関しては、昨年8月に人気歌手のホージアが、やはり「音楽業界の脅威になる」と警告していた。

今年1月にテネシー州で導入された類似音声・画像セキュリティ保護法(ELVIS法)は、AIの使用による侵害からアーティストを保護しようとする法律の一例と言えるだろう。

米連邦法としても、「No AI Fraud Act(AI不正行為禁止法)」案が下院に提出され、さらにFTC(米連邦取引委員会)もAIなどのテクノロジーを利用した「個人のなりすましを禁止する」新たな規則について協議を行っている。

今回の公開書簡を発表したARAのエグゼクティブディレクターであるジェン・ジェイコブセン氏は「現役のミュージシャンらは、すでに音楽ストリーミングの世界で生計を立てるのに苦労している。そして今度は、AIが生み出す雑音の洪水に対処せざるを得ないという、さらなる負担が彼らに課せられている」「人間のアーティストに代わるような、生成AIの非倫理的な使用は、アーティストとファンの両方にとって、音楽エコシステム全体の価値を下げることになるだろう」と声明で述べた。

ちなみに、ミュージシャンのなかにもAI生成で声を模倣することに否定的でない人物もいる。たとえば、イーロン・マスクとの関係でも知られるグライムスは「自分の声を使ったAI生成楽曲が成功したら、ロイヤリティを山分けすればいい」として「自分の声は罰則なしで自由に使うことを許可する」との考えをX(旧Twitter)で明らかにしている。

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