現在はまず発生しない事例

現在は行われていない治療でアルツハイマー病に「感染」した可能性。5つの症例が報告

Image:Atthapon Raksthaput/Shutterstock.com

認知症のアルツハイマー病は、アミロイドβタンパク質によって引き起こされることがわかっている。また、まれに遺伝子の欠陥が原因で発症することもある。

しかし、1月29日付けのNature Medicineに掲載された、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究チームによる論文では、医学的に後天的にアミロイドβタンパク質が伝達されたために発症したとみられる、生きている人間のアルツハイマー病の証拠が報告されている。

まず理解しておくべきことは、この研究報告がアルツハイマー病が感染性であることを意味するものではないということだ。健常者がアルツハイマー病患者と接触したとしても、それでアルツハイマー病に感染することはないとされている。

この論文によると、英国で1959年年から1985年にかけて1848人の治療に使用された、遺体由来のヒト成長ホルモン製剤(c-hGH)による低身長治療を受けた人のなかの、少なくとも5人が初期のアルツハイマー病の症状を発症したという。

研究者らは、特定された人のうち5人はすでにアルツハイマー病と診断されているか、そうでなければアルツハイマー病の診断基準を満たす可能性があると報告した。また、症状を発症した年齢が35~55歳と非常に若いことから、老化に伴う通常の散発性アルツハイマー病ではないことが示唆された。

Image:UCL News

c-hGHは、出荷された一部でクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)と呼ばれる、脳疾患を引き起こす感染性タンパク質に汚染されていることが判明したため、1985年以後は使用されなくなった。現在は合成成長ホルモン剤が用いられている。

研究者らは以前、ヒト成長ホルモン製剤による治療を受けた人の一部で、脳内へのアミロイドβタンパク質の沈着が早期に発生しているのを発見し報告している。さらに2018年には、かつて使用されて保管されていたc-hGHが、アミロイドβタンパク質で汚染されていることを確認。実験用マウスにそれを注射したところ、アミロイドβによる病状が発生したことが報告された

これらのことは、アルツハイマー病関連アミロイドタンパク質がCJDと同様に、医療処置や外科手術中に誤って拡散する可能性があることを示唆している。

ただ上でも述べたとおり、研究者らはこの状況は極めてまれなケースであり、c-hGHを行った治療はもう行われておらず、また他の医学的または外科的処置によってアルツハイマー病になった例もないことを強調している。

UCLプリオン病研究所所長で論文著者のひとりであるジョン・コリンジ氏は「アルツハイマー病で起こっていることは、CJDのようなヒトのプリオン病で起こっていることと多くの点で非常に似ているようだ」「この研究は、アルツハイマー病の治療法についての示唆をもたらすものだ」と述べた。

この研究による発見は、同じような偶発的感染のリスクがないよう、問題ないと思われることでも対策を見直すことの重要性を浮き彫りにしたと言えるかもしれない。

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