具体的な賠償請求はせず

米NYT、OpenAIとマイクロソフトを提訴。記事を無断使用したLLMと訓練データ破棄を求める

Image:Daniel Chetroni/Shutterstock.com

米The New York Times(以下NYT)は、OpenAIとマイクロソフトを提訴すると発表した。自社の何百万もの記事が、もっか同紙と競合しているAIチャットボットの訓練に無断で使われたと主張している。

訴状では、被告が自社の「ジャーナリズムへの巨額の投資にただ乗りしようとしている」と述べている。さらにOpenAIとマイクロソフトが「NYTのコンテンツを無報酬で使い、NYTの代わりとなる製品を作り、NYTから読者を奪っている」とも付け加えている。

訴状では具体的な賠償請求は含まれていない。だが、「NYT独自の価値ある著作物の違法なコピーと使用」に関連する「数十億ドルの法定および実際の損害賠償」につき、被告が責任を負うべきだと主張。さらに、NYTの著作物を使用したチャットボットの大規模言語モデル(LLM)や、訓練データを破棄するよう求めている。

この訴訟は、以前からNYTが提訴を検討していると噂されていたものだ。今年8月初め、同紙はサービス利用規約を更新し、テック企業がAIモデルを訓練するために記事や画像を無断でスクレイピングすることを禁止。それから数週間後、OpenAIを提訴する準備を進めていると報じられていた

今回の訴状によると、NYTは4月にマイクロソフト社とOpenAI社と接触し、知的財産の使用につき懸念を示し、「友好的な解決」を探ったという。しかし、この協議では解決には至らなかったとのことだ。

OpenAIの広報は、NYTとの対話が「建設的に前進」していたとの認識を示しつつ、今回の訴訟には「驚き、失望している」との声明を発表している。「我々はコンテンツ制作者と所有者の権利を尊重し、彼らがAI技術と新たな収益モデルから利益を得られるよう、協力することを約束する」「我々は、他の多くのパブリッシャーと同様に、互いに有益な協力方法を見つけることを望んでいる」とのことだ。

その一方、マイクロソフトはこの件に関するコメントを拒否している。

実際、OpenAIはBusiness InsiderやAP通信と、ニュース記事アーカイブの使用につきライセンス契約を締結しており、データを使う対価として金銭を支払っている。NYTとは、ライセンス料の額で折り合わなかった可能性もあるだろう。

だが、NYTはAIチャットボットを「信頼できる情報源として報道機関と競合」とみなしつつ、自社を「ChatGPTやその他人気AIプラットフォームのクリエイターである両社を、著作物に関する著作権問題で提訴した初の米大手メディア組織」と表現し、AIチャットボットへの敵視を示唆している。

さらに「チャットボットが時事問題やその他のニュース価値のある話題につき質問されると、NYTのジャーナリズムに依存した回答を生成する可能性がある。読者がチャットボットからの回答に満足してNYTサイトを訪問しなくなり、広告や購読料収入につながるトラフィックが減少することを懸念している」とのこと。

ことがジャーナリズム対AIチャットボットという原理原則に深入りすれば、訴訟は長引く可能性もある。また、ライセンス料が単なる使用料金のみならず、広告や定期購読への潜在的な損失補てんも含むのであれば、結局はOpenAIやマイクロソフトが許容しがたい巨額が請求されるのかもしれない。

NYTが求めるGPT-4などのLLMや訓練データ全ての破棄は、非現実的にも思われる。とはいえ、米大手メディアによる初のチャットボット関連訴訟には違いなく、今後のAI開発に少なからず影響を与えそうだ。

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