新人類誕生…?

新型コロナで世界がロックダウンしていた頃、タイでサルが石器を使い始めたことが判明

Image:David Bokuchava/Shutterstock.com

新型コロナのパンデミックで人々がロックダウン生活を送るなか、モンキーアイランドとも呼ばれるタイのペド島に生息するサルのある個体群で、新たな行動パターンが出現した初めての例を研究者が観察していた。

人類にとって、石器を使い始めたことは進化の重要なステップだったと考えられている。それが使われ始めたのが何百万年前なのかは正確にはわかっていないが、人類の文明を今日の姿に進化させる第一歩になったと言えるだろう。

だとすると、タイのサルもこれから遠い未来に新たな人類となるべく進化を始めたのかと思ってしまうところだが、実際はそうでもないようだ。まれにではあるが、他の霊長類も何かを手に持って道具として使うことは良くあるからだ。たとえば、チンパンジーやオマキザルの一部、ビルマカニクイザルなどが石器を使う能力を示している。

ペド島に生息するカニクイザルの類いも、ビルマカニクイザルと近い種であり、石器を使う行動が見られたとしても驚くことではないかもしれない。

しかし、バーミンガム大学の研究者が2018年に発表した論文では、カニクイザルにナッツの皮むき用の石器になる石を与え訓練したものの、失敗に終わっている。バンコクにあるチュラロンコン大学の研究者Suchinda Malaivijitnond氏も、10年間ペド島で数百匹のサルを観察したものの、この種のサルは道具を使わないと考えていた。

ペド島は観光地パタヤの沖合にある。このモンキーアイランドと呼ばれる島にサルが非常に多く生息しているのは、タイ海軍が基地内にまで食べ物をあさりにくるサルを捕獲してはこの島に放してきたことも原因のひとつだという。島では増えすぎたサルが観光客に慣れ、彼らが持ち込むナッツやマンゴーといった食べ物をエサとして恵んでもらうのが習慣のようになっている。

ところが、新型コロナのパンデミックが発生すると人々の旅行が規制され、島を訪れる観光客がいなくなってしまったため、サルたちは食料源を失って、自らエサとなるものを獲得する必要に迫られた。

そしてパンデミックが収まり、人々が再び島にやってくるようになったころ、Malaivijitnond氏は海岸で2頭のサルが、小石を使ってカキの殻を割っている姿を目にしたという。

Malaivijitnond氏ら研究者は今年の春、島に戻ってこの行動をきちんと調べることにした。その結果、かなり不器用ではあるものの、17頭のサルが石器を使っていることを確認した。サルは石を高く掲げ、カキに向かって投げつけて殻を割っていた。

研究者らは、この行動パターンがある個体によって発明され、それを見た別の個体が猿真似するようになったのか、それとも複数のサルが同時期に同じような発想にたどり着いたのかについてはわからないとしている。ただいずれにせよ、食糧不足がサルにエサを得る方法を発明させるきっかけになり、石器を使う行動につながった可能性があるとしている。

ただ、石を道具として使うことを覚えたサルたちが、今後は観光客が戻った島で再び楽に食物を与えてもらう生活に戻ってしまうのか、自ら道具を使い、もしかしたら改良したりする方向に行くのかは気になるところだ。

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