世襲制は採用せず

ロックバンドKISS、今後はデジタルアバターで活動へ。さよならツアー最終日に発表

Image:Tony Norkus/Shutterstock.com

1970年代から活動を続けてきた人気ロックバンドのKISSが、今後はデジタルアバターとしてショーを開催していくことを発表した。

この発表は、数年にわたり世界を巡ってきたKISSのThe End of the Road World Tour最終日、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでの最後の公演で行われた。バンドメンバーであるポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、トミー・セイヤー、エリック・シンガーが最後の曲を演奏し、ファンに別れを告げてステージを降りると、バックのスクリーンにデジタルキャラクターとして再現されたKISSが登場した。

このアバター映像は、ジョージ・ルーカスの特殊効果会社Industrial Light & Magic(ILM)と、スウェーデンのPophouse Entertainmentによって制作されたものだ。

Pophouse Entertainmentの幹部Per Sundin氏は、デジタル化したKISSでどういったことを展開していくのかとの問いに対して「彼らは(デジタルアバターになったことで)すでに超能力を得ている。コンサートやロックオペラ、ミュージカル、はたまた冒険活劇?われわれは可能な限りオープンでありたいと考えている」とした。

KISSのヴォーカリスト、ポール・スタンレーは「われわれは(キャリアを通じて)大きなことを成し遂げてきたと思っているが、まだまだ可能性はある」と述べ、「バンドの存在はわれわれを超越したものなので、存続するに値する。われわれにとって、次のステップに進みKISSが不滅の存在になっていくのを見るのが楽しみだ」と述べた

スタンレーとともにオリジナルメンバーとしてバンドを牽引してきたベーシストのジーン・シモンズは「夢にも見たことのない場所に連れて行くことで、われわれは永遠に若く、永遠に象徴的な存在になれる」「未来はとてもエキサイティングなものだ。われわれを退場させようとしても、それは無理な話だ」としている。

シモンズはポッドキャスターDean Delrayの番組Let There Be Talkで、最後のツアーについてたずねられ「ツアーをするバンドとしてのKISSは終わることになる。あくまで『ツアーをするバンドとして』だがね。KISSは他の形で続いていく。たとえば4人の20歳の若者がメイクアップを施して、その素性を隠しても問題はない」「だが、KISSは人々が考えたこともない形で続いていくだろう。たとえばBlue Man Groupなどは、世界中で違う人物がツアーをしている」と述べ、「そういう格好でのKISSのショーがあっても良いし、あって然るべきだと思う。特殊効果を使ったライブショーでね。自分たちはそこにいないかもしれないが、たまに参加するのも良いだろう」としていた。

ジーン・シモンズ、ポール・スタンレーらオリジナルメンバーの年齢は70代に入っており、トミー・セイヤーやエリック・シンガーもすでに60代だ。重い衣装・超厚底ブーツを着用し、様々なアクロバット的演出もこなさなければならないKISSのライブツアーは、肉体的にも負担が大きいといわれている。

バンドの歴史においてビジネスマンとしての才覚も発揮してきたシモンズのことだ、おそらく当時からバンド活動終了後も、ビジネスとしてのKISSをいかにして継続していくか、構想を練っていたのだと思われる。

Image:Tony Norkus/Shutterstock.com

3Dで実在の人物を再現する場合、その再現度が中途半端だと、人々はどうしても違和感や気味悪さを覚え、興味を失ってしまう。これは「不気味の谷」現象と呼ばれる現象だ。しかし、2021年12月に公開されたUnreal Engine 5の技術デモにおけるキアヌ・リーブスやキャリー・アン・モスの再現度を見ればわかるように、映像においては少なくとも不気味の谷を越えた、本物にしか見えない人物の再現が可能になってきている。2022年にはABBAのデジタル再現ツアー、ABBA Voyageが開催され、世界で好評を得た。このABBAのツアーは、上で紹介したILMとPophouseが手がけたものだ。

なお、メンバーがデジタルアバター化し、毎晩一緒にステージに上がる必要がなくなったのなら、今後の展開によってはシモンズとスタンレーが、バンドを去ったエース・フレーリーやピーター・クリスを再びショーに登場させようという気になる可能性もないとは言い切れない。さらに言えば、他界してしまったエリック・カーを地獄から呼び戻すこともできるはずだ。最後のライブショーを「A New Era Begins」という言葉で終了したKISSの「新たな時代」がどういった形で始まるのかは、特にファンなら注目するしかないだろう

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