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アルトマン氏巡る「OpenAI」騒動で交代した取締役会メンバー、新旧でこう変わった

Image:OpenAI

先週から今週にかけて繰り広げられたOpenAIの「お家騒動」は、サム・アルトマンCEOの突然の解任から復帰決定に至るまで、従業員全体やマイクロソフト、その他の投資家も巻き込み、AI業界の未来も大きく揺さぶる出来事だった。

それもようやくおさまり、現在のOpenAIはアルトマン氏をCEOとし、一新された取締役会での一歩を踏み出している。

なお、現在はまだ取締役会の席は完全には埋まっていないようで、マイクロソフトや主要な投資家から、その代表者を迎え入れる交渉が行われているとも言われている。

この記事では、OpenAIの旧取締役会がどのような人々で構成され、そして新取締役会がどのようにメンバーで構成されるかについて、記事執筆時点で決まっている情報を簡単に紹介する。

新しい取締役会メンバー

ブレット・テイラー(取締役会会長)

ブレット・テイラー氏は、多国籍eコマース企業Shopifyの取締役だ。イーロン・マスク氏が買収したのちに解任したが、Twitter最後の取締役会会長も務めていた。

コラボレーションプラットフォームであるQuipを共同創業し、それが2016年にSalesforceに買収されてからは、このCRM/SFAソリューション企業の共同CEOの座にマーク・ベニオフ氏とともに就いていた。

今年1月にはSalesforceを退職。2月に自身のAIベンチャー企業を元Google幹部とともに設立したが、OpenAIの取締役会長に座ることが決まった今、自身の会社への関与を継続するのか、OpenAIに集中するのかは不明だ。

ローレンス(ラリー)・サマーズ

クリントン政権における財務長官。オバマ政権の国家経済会議議長でもあった。

Twitter共同創業者ジャック・ドーシーが率いる金融テクノロジー企業Block、教育テクノロジー企業Skillsoftでも取締役を務めている。

2001年7月よりハーバード大学第27代学長に就任したが、2006年に女性差別と見なされる発言が激しい批判を浴びることとなり辞任している。

アダム・ダンジェロ

アルトマン氏解任時の取締役会から引き続き席を維持。アルトマン復帰における交渉で重要な役割を果たしたとされる。

ユーザーナレッジコミュニティ(Q&Aプラットフォーム)のQuoraのCEO。以前は2006年から2008年にかけFacebookでCTOを務める。また、今年2月にAIチャットサービスPoeを発表した。

取締役会を去ったメンバー

ヘレン・トナー

ジョージタウン大学の、セキュリティおよび新興技術に関する研究者。助成金交付財団Open Philanthropyで、AI政策担当アドバイザーを務めていた。

OpenAIは非営利のAI研究開発団体という枠組みの下に「営利事業部門」を抱える、いわば歪な会社構造となっている。

トナー氏は10月に発表した論文で、OpenAIのChatGPT立ち上げがきっかけとなり、業界が独自のAIチャットボットを続々と立ち上げるに至ったことが「社内の安全性と倫理の審査プロセスの加速または迂回」を促進、「安全にAIを開発する」という取り組みがおろそかになったと、営利に走る会社の姿勢を批判した。

ターシャ・マッコーリー

シンクタンクであるランド研究所の非常勤上級管理サイエンティスト。リアルタイム探索およびインタラクションが可能な3D都市モデルを構築するサービスGeosim SystemsのCEO。ハリウッド俳優ジョセフ・ゴードン=レヴィットの配偶者として知られる。

一連のアルトマン氏解任劇では公での発言はない。

イリヤ・サツケヴァー

OpenAI共同創設者のひとりでチーフ・サイエンティスト。130以上のAI研究論文著者または共著者。グレッグ・ブロックマン氏と親交があり、アルトマン氏の提案でブロックマン氏とともにOpenAIを統率していた。

アルトマン氏解任の際は、解任側に同調したが、後にその判断は誤りで、後悔していると述べた。またアルトマン氏復帰がなければ従業員のほぼ全員が退職するとした公開書簡では、署名リストの最も上に名を記している。

ただし、アルトマン氏復帰後、サツケヴァー氏は取締役の席から外れている。

今後の見通し

現在、OpenAIの取締役会は3人のみが正式に発表されている。暫定CEOとして呼ばれた元Twitch CEOのエメット・シア氏は、このメンバーには含まれていない。

Semaforなどは、アルトマン氏が過去数か月にわたりOpenAI取締役会の人数を増やすべきだと述べてきた、と報じており、取締役会が現在の3人から増員される可能性は高そうだ。

マイクロソフトのサティア・ナデラCEOはアルトマン氏復帰決定前、OpenAIに関して「既存のガバナンス構造を変化させる必要があることは明らか」とコメントしていた。この発言は、OpenAIにもっと大規模な取締役会にすることを望んでのものだった、とBloombergは述べている。

新旧取締役会の顔ぶれを見れば、新しい取締役会は、少なくとも以前より従来型のシリコンバレーのスタートアップ的(つまり商業重視)に変貌しつつあるように見える。ただ、今のところはまだ、OpenAIは非営利団体が所有する「利益に関する制限」を持つ事業体という構造を保っているようだ。

なお、今回のお家騒動のきっかけのひとつとして、最近のアルトマン氏の姿勢が開発中のAIがどのようなものであるのか、その結果を理解する前に進歩を商業化することへの懸念が、旧取締役会にあったようだ。Reutersは匿名の関係者から得た情報として、取締役会に送られた社内メッセージのなかでQ*(キュースターと発音)と呼ばれるプロジェクトに関する言及があったとしており、社内ではそれが汎用人工知能(AGI)として知られるものの研究において、画期的な進歩をもたらす可能性があると考えている人もいたとしている。

現在の生成AIの多くは、次の単語を統計的に予測することによる文章作成や言語翻訳には優れるものの、同じ質問に対して全く同じ回答を返すのが難しい可能性があるという。Q*は、小学生程度ながら特定の数学的問題を解決できた、という段階のモデルだが、正解がひとつしかない数学の能力を克服するということは、AIが人間の知能に似た、より優れた推論能力を持ちうることを意味する。

限られた数の演算を解決できるだけの電卓とは異なり、AGIは一般化、学習、理解できるようになるとされ、そうなれば新しい科学研究に応用できる可能性があると、AI研究者らは考えている。

アルトマン氏は、ChatGPTを市場最も急速に成長したソフトウェアとする取り組みを主導し、AGI実現に向けてマイクロソフトから巨額の投資やコンピューティングリソースを引き出してきた。

そしてアルトマン氏は、先週開催されたアジア太平洋経済協力会議で、「OpenAIの歴史の中でこれまで4回、最近ではこの数週の間にも、無知のベールを押し戻し、発見のフロンティアを前進させるような瞬間に立ち会えた。それを達成することは、一生に一度の名誉だ」と発言。要するに、生成AIにおける大きな進歩が目前に迫っていることをほのめかしていた。こうした動きが、旧取締役会を解任に踏み切らせたとも推測されている。

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