それでも外へのアクセスは消えない?

中国からオープンなインターネットにアクセスするためのツールが消えつつあるとの報告

Image:macka-Shutterstock

世界最大の人口を抱える中国は、そのインターネットユーザー数も世界最大で10億人を超えると言われている。

しかし、中国当局はオンラインで入手できる情報を統制するため、国外との接続を規制・遮断する「Great Firewall(GFW)」と呼ばれるネット検閲システムを導入しているとされる。そのため、中国国内のインターネットユーザーは自由に国外の情報を閲覧できない。

たとえば、中国国内の検索エンジンをはじめ各種インターネットサービスで「天安門事件」を検索しても、その結果に1989年6月の出来事が出てこないというのはよく聞く話だ。また、習近平国家主席を揶揄するとされる「クマのプーさん」が厳しく検閲されるというのも有名な話だ。

ただ、こうした状況はユーザー側も理解しており、GFWを迂回してインターネットへの自由なアクセスを可能にするVPNやプロキシーツールを開発し、広く利用してきた。

VPN(インターネットVPN)は、ユーザー側の端末に導入したクライアントソフトとインターネット側にあるVPN装置との間の通信を暗号化・カプセル化し、仮想の通信経路を構築することで、両者間以外からは通信内容がわからないプライベート回線のように扱う技術だ。

一方、プロキシツールの仕組みは、ユーザー側のクライアントデバイスとインターネットの間にアクセスを中継する代理(Proxy)サーバーを配置することで、クライアント側のIPアドレスが外部に漏れないようにしつつ、自由にインターネットへのアクセスを実現する。

ところが最近になって、こうしたツールの中で人気あるものが、いくつか姿を消したことが報告されている。11月はじめには、Windows用のプロキシーツールである「Crash」が、配布元となっていたGitHubリポジトリから消えた。

さらに、GFW Reportという検閲監視プラットフォームによれば、Clashの関連ツール(Clash Verge、Clash for Android、ClashXなど)も、GitHub上で次々と削除またはアーカイブされ始めた。

GitHubは通常、コンテンツを削除する決定についてコメントしない。一方で透明性のために、どこかの政府機関からのリクエストでリポジトリから削除したコンテンツは、そのリストを公開している。このリストにCrashは含まれていなかった。

このことは、Clashの開発者が中国当局に特定され、何らかの圧力をかけられた可能性が高いとの推測を引き起こした。

Crashの開発者は、TechCrunchからのコメント要請に対して「現在の私の約束と方針により、このトピックについては公然と議論することができない」と返答した。

プロキシサーバーは、中継サーバーの情報を解析すると、そこにアクセスしているクライアントの情報がわかる。そのため、当局に差し押さえられれば、利用者が特定される可能性がある。中国政府の方針に違反していると見なされれば、開発者の活動が著しく制限されたり停止させられたりするという。

別のプロキシーツール開発者は最近、自身が持つプロキシーリポジトリの「TUIC」を削除し、国家の圧力が絡んでいる可能性を示唆した

反検閲団体Great Fireのリーダー、チャーリー・スミス(仮名)氏は、TechCrunchに対して「当局は、公然と迂回ソリューションを作成している中国の開発者を特定し圧力をかけることに躊躇しない。これらの開発者は通常、別の職を持っており、そのまま活動を続けると自らの収入を危険にさらすことになる」と述べた。

Clashは、中国のプロキシサービスの推奨クライアントとして人気があり、TelegramのClashグループには約4万人のメンバーがいる。そして、GitHubのリポジトリからCrashが削除されたいまも、これまでにインストールされたシステムではまだ動作しているとされている。

上記のような中国のインターネット制約を回避するツールを提供する開発者らは、定期的に当局に拘束されたり処罰対象とされたりしており、こうした事実は人々が自由なインターネットへアクセスするための手段を用意する活動を、冷え込ませる効果をもたらしている。

デジタル公民権団体Access Nowの匿名の研究者は、2012年11月に習近平氏が国家主席になって以来、こうした動きは加速していると述べている。

しかし、「当局が情報へのアクセスを遮断すればするほど、中国国民はこうした遮断を回避する方法を模索するようになる。革新的なソリューションは現在も開発されており、今後も開発され続けるでしょう。中国人は情報にアクセスする方法を見つけるだろうし、そのようなサービスに対する需要は今後も高まる可能性が高い」とスミス氏は述べた。

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