ただし、アンドレッティのF1参戦は未確定
GM、2028年からF1パワーユニット製造に参入。アンドレッティに供給へ
ゼネラルモーターズ(GM)は、2028年からアンドレッティ・キャデラックにフルワークス体制でF1パワーユニット(PU)を供給する予定だと発表した。
GMのマーク・ロイス社長は、「アンドレッティ・キャデラックによる新たなF1参戦が、GMのパワーユニットで出走することをうれしく思います」と述べ、「アンドレッティ・キャデラックを真のワークスチームとして位置づけることができると確信しています。私たちは、世界中のレースファンのためにこのスポーツを盛り上げることに貢献する情熱と誠実さを持って、最高峰のレースで最高の走りを披露します」とコメントした。
ただ、GM社長の鼻息も荒いコメントとは裏腹に、アンドレッティチームがF1に参戦できるかどうかはまだ確定していない。
アンドレッティ・キャデラックのF1新規参戦は、国際自動車連盟(FIA)からは承認を得られているものの、スタートラインにマシンを置くためには、Formula One Management(FOM)との商業面での合意も必要となる。そしてさらに、既存の参戦チーム全体からも参戦の承認を得なければならない。
しかし既存チームたちは、アンドレッティがグリッドに並ぶことに対し非協力的な態度を示している。その理由のひとつは、F1の賞金プール制度にある。F1チームは毎年、このモータースポーツを運営するF1グループ(FOMもここに含まれる)の収益から、一定の割合を成績に応じて賞金として受け取っている。しかし、これまで10チームで分配されてきた賞金が11チームに増えることになれば、その分各チームの懐に入る額が目減りしてしまうことになる。
さらに、いまはNetflixのF1番組『Drive to Survive』(邦題 Formula 1: 栄光のグランプリ)が世界的に人気を博しており、F1の収益を押し上げている状態だ。そのため、アンドレッティが11番目のチームとして加わったとき、せっかく増えているチームの取り分が減ってしまううえ、それを補うほどの経済的効果をアンドレッティがもたらすことができるのかも疑問視されている、というわけだ。
レーシングチームが新たにF1に参戦する際には、こうした分配金の希薄化への対策として、新規参戦のための希薄化防止手数料(anti-dilution fee)を用意することになっている。現在、その金額は2億ドルとされている。その金額の根拠は、名門ながら低迷が続いていたウィリアムズF1チームが2020年に投資会社に買収された際に、支払われた金額が2億ドルだったことを参考にしている。しかし、現在は上にも紹介したNetflix効果によって、F1全体の価値が上昇している。今年10月に、やはり投資家グループがアルピーヌF1チームの株式24%を取得したが、その額は約2億1100万ドルだったという。
つまり現在の状況にあっては、既存F1チームはアンドレッティが参戦するならば、2億ドルを大きく超える金額を用意すべきだと考えているということだ。
また、GMがアンドレッティにパワーユニットを提供するのが2028年からというのも問題のひとつだ。アンドレッティのチームオーナー、マイケル・アンドレッティは、早ければ2025年にも参戦の準備が整うと述べているが、その場合パワーユニットをどうするかは決まっていない。したがって2028年よりも早期にF1に参戦できることになれば、既存のパワーユニットメーカーとの短期契約を探さなければならないことになる。
現在、F1にパワーユニットを供給しているのは、メルセデス、フェラーリ、ルノー、レッドブル・パワートレインズ(ホンダと提携)の5メーカーで、この体制は2025年まで継続することが決まっている。そしてエンジン規定が全面的に改定される2026年には、ここにアウディが加わり、レッドブル・パワートレインズが提携先をフォードに切り替えるとともに、ホンダは単独でのPU供給体制に変わる予定となっている。
上記PUメーカーのなかで可能性があるとすれば、以前にアンドレッティとの交渉が報じられたルノーになるかもしれないが、その後でキャデラック(GM)とのパートナーシップが発表されたこともあり、現在のルノーとの関係は不明だ。
ファンの目線で見れば、F1チームが増えればさらにレースが激しく争われることにもなり、楽しみが増すと思われる。アンドレッティと言えば米国最大のレーシングチームのひとつであり、2017年には日本の佐藤琢磨選手が、このチームで世界三大レースのひとつ、インディ500を制したことを覚えているファンも多いはず。F1の門扉はなかなか大きく重たいものの、GMの鼻息が荒いうちに、その扉が開くのに期待したいところだ。
- Source: Cadillac
- via: Raccer Ars Technica