1頭がたくさん牛乳作る→飼育数が減らせる→温暖化ガスも減る

牛乳を「最大20倍」作り出す牛が生み出される

Image:Kraipet Sritong / Shutterstock

気候変動による温暖化の原因のひとつとして、意外に大きな問題として研究もされているのが牛のゲップによるメタンガスの放出だ。メタンガスの排出量は二酸化炭素(CO2)ほどではないものの、同じ量ならメタンガスのほうが約25倍の温室効果があるという。

牛は大量の草を食べるが、その繊維質を消化する際に、体内に大量のガスを発生させる。それがゲップや排泄物とともに大気中に放出され、温暖化が促進される。排泄物についても、正しい管理や適切な処分の仕方をしなければ、そこからCO2やその他温暖化ガスが発生してしまう。

また、牛を飼育する牧草地を確保するために、しばしば森林伐採が行われている。伐採で木々が固定化していた炭素が放出されるほか、光合成によるCO2の吸収も減ってしまう。もうひとつ、家畜のための作物を生産するためにも、多くの水やエネルギーが消費されており、畑の整備のために森林破壊や野生動物の生息地減少を招く可能性もある。

こうした問題を軽減するために考えられる1つの方法が、牛の頭数を減らすことだが、そうすると生産できる牛乳の量も減ってしまう。そこで、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の動物科学研究者らのチームは、高い気温、干ばつ、疾病に強いタンザニアの在来種のギル牛(Gyr)と、ホルスタイン(またはジャージー種)の特徴を併せ持ち、通常より最大20倍もの牛乳を生産できる牛を作り出す研究を行い、『Animal Frontiers』に発表した。

Image:University of Illinois at Urbana-Champaign

タンザニアの農家が飼うギル牛は、1日に平均0.5リットルの牛乳しか作れない。しかし研究で誕生した牛は、現地と同じ気候を再現した環境において、1日最大10リットルの牛乳を作り出した。これは単純計算で20倍の生産量になる。研究プロジェクトを率いるイリノイ大学の動物科学教授マット・ウィーラー氏は、この種の牛の胚をタンザニアに持ち込み、現地で繁殖させる準備を整えているという。

実は、ギル牛とホルスタインを掛け合わせて両者の特徴を併せ持った牛「ジロランド」は、ブラジルでは一般的に飼育されているという。しかし、ブラジルでは地域特有の病気があり、そこにいる牛を国外へ輸出することはほぼ不可能だとウィーラー氏は説明する。そして「われわれは世界中どこでもその遺伝子を持つ牛を輸出可能にすべく、米国で高い健康状態を持つこの種の牛を開発したかったのだ」とした。

研究チームは近い将来、タンザニア国内2か所で、現地の牛100頭に研究で作り出した胚を移植する予定だ。それらの牛から生まれた仔牛をさらに継代して受精させ、ホルスタイン(またはジャージー種)の遺伝子を5/8、ギル牛の遺伝子を3/8ずつ併せ持つ遺伝子合成牛を作り出すことを計画している。この遺伝子を持つ牛の品種が確立されれば、それ以降は同じ遺伝子比率を維持できるようになる。

ウィーラー氏は、この合成品種が現地の在来種と完全に入れ替わるまで、しっかり維持することが重要課題になるとしている。在来種と同じ場所で飼育し、交配が起こってしまうと、次の世代はせっかく作り出した特徴が減退することになるからだ。

そのためにチームは昨年、タンザニアから獣医や学生12人を迎え、必要な知識や技術を教えるオンラインコースを開催した。今後もこうした取り組みは行われるという。

今回の取り組みは、まだごく初期の段階だが、より気候変動に強い畜産農業を導入する上で重要な第一歩となる。もちろん技術は米国国内の畜産にも役立てることができ、気候変動から牛を守ることが可能になる。

「これらの牛は、メキシコ、テキサス、ニューメキシコ、カリフォルニアで非常によく働くでしょう。おそらく、今それについて考え始める時期に来ているのかもしれない」とウィーラー氏は語っている。

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