タトゥー除去手術の料金代わりに社会奉仕

ギャングのタトゥーを除去すると世の中の暴力が減り、社会が上向くとの報告

Image:PakulinSergei/Shutterstock.com

2023年の米国外科学会(ACS)臨床会議で発表された研究結果によると、タトゥー除去はロサンゼルス東部における暴力やトラウマの軽減に役立つ可能性があるという。

南カリフォルニア大学 ケック医学校で臨床外科学を研究するDamon H. Clark助教授は、ギャングや性風俗関係者と見なされるようなタトゥーを身体に施している人は、暴力の標的になる可能性があるとこの研究で述べている。

また、そのような個人リスクの背後には、薬物乱用から貧困、教育、地域の安全、雇用機会における格差があることが指摘されている。

タトゥーを入れている人は、それだけで仕事を得にくくなるものだ。たとえば、米国の軍隊に入隊したいと考えても、米軍では顔や首、腕など身体の露出する部分にタトゥーを入れることを禁じている。

また、ギャングに関連するタトゥーがある人は敵対する組織から標的にされやすく、また警察からもより暴力的に対処される可能性が高まる。

研究では、タトゥーを除去することで、そうした危険や格差に晒されている個人が暴力を受けるリスクが減り、新たなアイデンティティを構築して雇用の機会を得やすくなるかを調査した。

Clark氏によると、刺青の除去には通常、1回あたり200~500ドルの費用がかかるという。またプロの彫り師によって入れられた刺青を除去するには、6~8回の施術が必要になる。しかし、刺青を施している人の半数以上は、何らかの理由で刑務所などの施設に収容されている間に、素人の手でタトゥーを入れられていると報告では述べられている。そのような環境では、刺青用のインクなどはなく、ペンのインクや塗料の残り、さらには鉛筆の芯といった適当なもので代用されるのが一般的であり、そのようないい加減な施術で入れられたタトゥーの除去にはだいたい15~20回の施術が必要になるとのことだ。

Image:American College of Surgeons

研究では、被験者がタトゥーの除去術を受ける料金のかわりとして、1回あたり5時間の奉仕活動を行わせた。また、奉仕活動には教会や非営利団体でのボランティア活動など、様々な内容を認め、少年の場合は学校へ通うことも活動として認めた。

また被験者には刺青の除去と奉仕活動への参加だけでなく、生物学や医療関連といった科学的な知識を得るための勉強機会も与えられ、必要ならばアルコールや薬物依存症のカウンセリングも提供した。

研究全体としては、これまでに26人の男女が合計208回の刺青除去の施術を受け、後に35個のタトゥーが完全に除去されたと報告されている。被験者は合計で1万7265時間を超える社会奉仕活動をこなした。

また、被験者の9人中8人(88%)が、より健康的な生活に移行するためにタトゥー除去を希望し、81%がタトゥー除去後に目標を達成できたと報告した。

結果の一例として、Clark氏は2016年にこのプログラムの最初に加わったひとりの高校中退者を紹介している。この人物は当時、ギャング組織に関連する刺青を取り除くためにプログラムに参加し、それをきっかけに高校に復帰、後に4年生大学に進学し、現在はワシントンDCでシークレットサービスのエージェントとして働くまでになったとのことだ。

Clark氏は「暴力は医学的な問題であり、われわれの国や病院、さらには生産活動に対して大きなコストを発生させている」とし「社会問題ではなく疾患として扱えば、もっと良い結果が得られるだろう」と述べた。

関連キーワード: