開発元はこういう形での「宣伝」を望まず

ミリタリーFPS『Arma3』をハマス・イスラエル紛争と偽る動画拡散。開発元が注意喚起

Image:Marko Aliaksandr/Shutterstock.com

2013年に発売された軍事サンドボックスゲーム(プレイヤーが自由に行動・構築できる世界を提供するゲーム)『Arma3』を用いた映像を、現在進行中のハマス・イスラエル紛争を撮影した本物だと偽るフェイク動画が複数のSNS上で拡散している。

たとえばXに投稿された22秒の動画は、「イスラエルのヘリコプターが粉砕される」瞬間として1050万回近く再生されている。元々YouTubeのショート動画として10月3日に投稿されたもので、「Armaによる映像」と正しく説明されていた。だが、Xのコミュニティノートでも指摘されているものの、インドやトルコのFacebookに拡散するのを止めるには至っていない。

また別のX動画は「ハマスの戦士がイスラエルの戦闘ヘリを撃墜する」と称して260万回以上のビューを記録。こちらも元ネタは「Arma3によるもの」と但し書きが付けられたYouTube動画が元ネタだと指摘されている。

https://twitter.com/_Hareem_Shah/status/1710890777407058344?s=20

より深刻なのは、政治団体もフェイク動画の拡散を後押ししていることだ。英極右政党ブリテン・ファースト党首のポール・ゴールディング氏が一時的にシェアした「イスラエルがガザに地獄の業火を降らせようとしている」との動画は、元のTikTok動画で説明の末尾に「デジタルコンバットシミュレータ」と添えられている。

『Arma3』によるゲーム映像がフェイクニュースに悪用されることは、何度となく繰り返されてきた。開発元のBohemia Interactiveはブログ記事で警告を発し、ウクライナ戦争など現実の紛争と偽る動画が出回っており、時には世界中の様々な大手メディアや政府機関までもシェアしていると指摘しているほどだ。

なお同社は昨年11月末にも注意喚起をしており、最新の紛争に対応してブログを更新している。

すでに発売から10年近く経ったゲームではあるが、ユーザーによるカスタマイズやMOD(ユーザー生成コンテンツ)に広く門戸を開いていることから、今なお進化を続けている。たとえばSteamワークショップ経由で入手できるMODは2万点以上におよび、過去・現在・未来のあらゆる紛争を細部まで再現できるわけだ。

軍事サンドボックスゲームの映像があたかも本物の紛争に見えるのは、技術的には成功に違いない。しかし、2018年にロシアの国営ニュース番組がシリア紛争の映像だと間違って紹介した際に、Bohemia Interactiveは「これは間違いなく、我々のゲームを宣伝するために使いたい方法ではない」とコメントしていた。

最新のブログ記事でも、フェイク動画を取り締まる努力をしていると同社は明かしている。自らプラットフォーム・プロバイダに通報してきたものの、「ほとんど効果がない。動画が削除されるたびに、毎日10本以上の動画がアップロードされている」とのことだ。

同社は、こうしたゲームに動画を現実世界の映像と見分けるためのヒントを提供している。非常に低い解像度(ゲーム映像であることをごまかすため、意図的にぼかしている)、大げさな手ぶれ(ドラマチックな効果を醸し出すため、ゲーム画面をカメラで撮影している)、暗闇や夜であること(ディティール不足を隠すため)といったところだ。

また、「動いている人間が登場しない」ことは分かりやすい目安だろう。「このゲームは軍用車両の動きを比較的リアルにシミュレートできるが、動いている人間を自然に見せることは、最新のゲームでもまだ非常に難しい」と書いている。

これら典型的な手口を、Bohemia Interactiveは動画で解説している。くれぐれも、フェイクニュースの拡散に加担しないよう心がけたいところだ。

関連キーワード: