【連載】佐野正弘のITインサイト 第77回
機能強化も値上がりした「Pixel 8」シリーズ、Googleは高コスパを維持できるのか
自社独自のスマートフォン「Pixel」がコストパフォーマンスの高さで評価され、OSだけでなくハードウェアでも日本での存在感を急速に高めているGoogle。2022年にはスマートウォッチの「Pixel Watch」、2023年にはタブレットの「Pixel Tablet」や折り畳みスマートフォンの「Pixel Fold」など、製品ラインナップを拡大して一層攻めの姿勢を見せている。
Googleが新フラグシップスマホ「Pixel 8」シリーズを発表。各種性能が進化
そのGoogleが10月4日、3つの新機種を発表した。1つはPixel Watchの後継モデル「Pixel Watch 2」であり、デザイン面は大きく変わらないながらもセンサー部分を一新し、より精度の高い心拍数の測定が可能になったほか、前機種で不満が多かったバッテリーの持続時間も改善している。
だが、より大きな注目を集めたのは、やはりスマートフォンのフラグシップモデルの新機種「Pixel 8」シリーズの2モデルであろう。Pixel 8シリーズは今回も、スタンダードモデルの「Pixel 8」と大画面モデルの「Pixel 8 Pro」の2モデル展開となるが、大きな変化ポイントの1つは本体サイズである。
Pixel 8シリーズのデザインは、「Pixel 7」シリーズまでと大きく変わっていないが、本体サイズがややコンパクトになっている。とりわけPixel 8は、画面サイズが6.2インチと、「Pixel 7」と比べ0.1インチ小さくなったもののより小さく片手で持ちやすいサイズ感となっている。
2つ目はカメラだ。PixelシリーズはAI技術を活用したソフトウェア処理による機能進化に重点が置かれているが、Pixel 8シリーズはハード面でもカメラを強化。広角カメラのセンサーは光感度が21%アップし、より暗い場所での撮影に強くなったほか、Pixel 8 Proは超広角カメラにも4,800万画素のセンサーを導入、マクロ撮影により活用しやすくなっている。
もちろん、AI技術を活用した新しい撮影機能も多数用意されている。複数の人数で写真を撮影した際、全員がベストな顔になるよう調整する「ベストテイク」など写真関連の機能追加はもちろんだが、今回は動画撮影時の不要な雑音を消す「音声消しゴムマジック」など、動画関連の機能が多く追加されているのが大きなポイントだ。
3つ目の進化ポイントがチップセットで、Googleが新たに開発した「Tensor G3」を搭載している。Tensor G3は、Pixel 7シリーズに搭載されている「Tensor G2」と比べ、AI関連の処理が大幅に高速化されているのはもちろんのこと、CPUやGPU等に関しても新たな設計が取り入れられ、大幅な性能向上がなされているという。
そのことで期待されるのがゲーミングだ。Tensor G2を搭載したPixel 7は、初代「Tensor」を搭載した「Pixel 6」シリーズと比べ、ゲーミングに関する性能があまり向上していなかっただけに、CPUやGPUの高度化がなされたTensor G3を搭載したPixel 8シリーズには、ゲーミング関連性能の大幅な向上が期待されるところだ。
そして4つ目の進化ポイントであり、ある意味何よりも大きな進化といえるのがサポート面である。従来のPixelシリーズは、OSのアップデートを3回、セキュリティアップデートを5年間保証するとしていたが、Pixel 8シリーズではOS、セキュリティのアップデートが共に7年間に延長されているのだ。
昨今はスマートフォンの進化が停滞するなどして、同じスマートフォンを長く使う傾向が強まっている一方、AndroidスマートフォンはiPhoneと比べOSアップデートのサポート期間が短く、長く安心して利用できないことが大きな課題とされてきた。それだけに、Pixel 8シリーズが7年間ものアップデートを保証したことは大きな意味を持つといえ、購入時の安心感が大きく高まったことは間違いない。
機能強化の一方、気になった価格の高騰
他にもさまざまな機能のアップデートがなされたPixel 8シリーズだが、その一方で消費者の目線に立つと残念に感じたポイントが価格だ。Googleストアでの販売価格はPixel 8で11万2,900円から、Pixel 8 Proで15万9,900円からとなっており、Pixel 7シリーズと比べ2万円程度値段が上がっている。
値上の要因としては無論、円安の進行が大きいだろうが、米国での販売価格もPixel 8で699ドル、Pixel 8 Proで999ドルと、Pixel 7シリーズより100ドルの値上げがなされている。GoogleのGoogle Pixel 製品管理担当 シニア ディレクターであるピーター・プルナスキー氏も、Pixel 8シリーズがカメラやチップセットを中心に大幅なパワーアップをしている一方、価格を決定するには「材料や為替などの影響など、さまざまな要因がある」と話しており、複数の要因から従来の価格を維持するのは難しかった様子を見せている。
ここ最近、日本でGoogleがシェアを急速に伸ばしている要因として、円安が進行する中にあってもハイエンドに匹敵する性能のスマートフォンが低価格で購入できるなど、Pixelシリーズのコストパフォーマンスが際立って高いことが挙げられる。それだけに、Pixel 8シリーズで他社のハイエンドモデルと大きく変わらない値段となってしまえば、販売にブレーキがかかる懸念もある。
だが、そこはグーグルも抜かりなく対策を取っているようだ。Googleストアでは、PixelシリーズやiPhoneの対象機種を下取りに出すことなどにより、Pixle 8シリーズが実質3万9,800円になるキャンペーンを実施するとしている。
また、Pixel 8シリーズは今回も、KDDIとソフトバンク、そして「Pixel 7a」に続いてNTTドコモからの販売がなされるとのこと。Pixelシリーズは携帯大手による値引きで販売を伸ばしている部分も大きいだけに、引き続き携帯大手3社からの販売を実現したことが、同社の優位に働くことは間違いない。
Pixel 8シリーズの価格を見るに、長く続いている円安がPixelシリーズのコストパフォーマンスに影響を与え始めていることは確かだと感じる。だが、企業体力と強いブランド力でまだ厳しい状況をカバーできていることも確かなだけに、日本のスマートフォン市場におけるGoogleの優位性はまだ続くことになりそうだ。