今後はOSIRIS-APEXの名で頑張ります

NASA、OSIRIS-RExが持ち帰った小惑星サンプルを回収

Image:NASA / Keegan Barber

NASAが、小惑星ベンヌから帰還したOSIRIS-RExが地上に投下した、サンプル入りカプセルを回収した。これはNASA初の小惑星サンプルリターンであり、容器には数百グラムの岩石や土壌が入っている可能性が期待されている。

OSIRIS-RExプログラム責任者のメリッサ・モリス氏は「OSIRIS-RExのような小天体ミッションへの投資により、太陽系がどのように形成され進化したかについての手がかりを得ることができる」と述べている。

回収チームはユタ州の砂漠からサンプルを回収したのち、クリーンルームに運び込まれて外装部品を除去。その後、ジョンソン宇宙センターへの輸送の際に空気でサンプルが変質しないよう、窒素を内部に充填して保護する措置が施された。初期の検査では、収集された小惑星サンプルがカプセル内の容器から漏れ出た形跡はなかったとのことだ。

OSIRIS-RExの主任研究員であるダンテ・ローレッタ氏は「われわれが本当に知りたいと思っているのは、タンパク質を作るアミノ酸や遺伝子を構成する核酸などが、古代の小惑星で形成され、宇宙から地球に届けられたのかということだ」と述べている。

古代の地球において、生命の起源となる物質がどこか宇宙の他の場所からやって来たという考えはSF的であり、常識的な人ほど奇抜な考えと思うかもしれない。しかし実際には、これは生命の重要な要素のいくつかが、如何にして地球上に誕生したかを説明するうえで合理的で、広く受け入れられている理論だ。誤解されやすいのは、どこか別の天体で誕生した生命が地球に飛来して繁殖したという考えだが、そうではなく、あくまで「生命の基本的な構成要素」、つまり有機化合物が小惑星によって、原始の地球にやってきた可能性がある、ということだ。

ただ、この考えは数十年のあいだ、ずっと理論上の話だった。今回のサンプルリターンは、そのような物質が含まれているかを確認すべく小惑星に探査機を送り込み、そして現地の物質を地球に持ち帰ることで、長さ1マイルもあるような巨大な粒子加速器のような設備でそれを分析可能にしようとするための試みだ。

地球外から生命の構成要素がやって来たと考える理論を研究するには、隕石を調べる方法もある。しかし、隕石はそれがどこから飛来したのかがわからないうえ、もともとどのような天体に近かったのかを知ることもできない。そのためデータが取れたとしても解釈が難しい。また大気圏を通過する際に地球由来の物質を取り込んでしまい、結果的に汚染された情報しか得られない可能性もある。そのため、可能な限り純粋な小惑星由来のサンプルが必要になるのだ。

もちろん、われわれ日本人としては、OSIRIS-RExミッションよりも先に2度の小惑星サンプルリターンを実現させたJAXAの「はやぶさ」「はやぶさ2」を忘れるわけにはいかない。はやぶさが持ち帰ったのはごく微量な物質だけだったが、はやぶさ2は2020年に小惑星リュウグウから約5gものサンプルを持ち帰ることに成功した。これは昨日までは他のどの国も実現できていない偉業だった。

しかし、今回のOSIRIS-RExの回収カプセルのなかには、約250gのサンプルがあると考えられている。これはミッション要件である60gをはるかに超える量であり、ローレッタ氏は9月22日の会見で、カプセルには250gプラスマイナス101グラムの物質が積まれていると見積もっていると述べた。これはわずか数gのサンプルに比べて、より多くの化学分析が可能になることを意味している。

ただし、科学者たちの間の認識としては、はやぶさのサンプルとOSIRIS-RExのサンプルで何かを競っているわけではなく、両者は相互に補完する役割を果たすものだというのが一般的のようだ。

OSIRIS-RExとはやぶさ、両方のミッションに関わるローレッタ氏は「すべての小惑星が同じというわけではない」と述べ、リュウグウとベンヌはその形こそ似ているものの、色はリュウグウが赤みがかっているのに対してベンヌは青っぽいと指摘。そしてその違いが何を意味するのかはわかっていないとした。

両者のサンプルを分析して比較することで、きっとその違いがわかるだろう。ローレッタ氏は「われわれはこれらを2つのサンプル分析プログラムではなく、1つの大きなサンプル分析プログラムと見なしている。なぜならこれらは世界規模の取り組みだからだ」と語った。

小惑星ベンヌは、約45億年前の物質で構成され、ほとんど変質していないと考えられている。つまり、太陽系の初期段階からのタイムカプセルと言えるかもしれない。しかし研究者らは、詳細な分析が行われるまでその年代を正確に知ることはできない。まずは、回収されたサンプルをしっかり保全し、そこから少しずつ、いくつかの謎が明らかにされていくことになるはずだ。

なお、OSIRIS-REx探査機はサンプルを大気圏で投下したのち、再び地球を離れる軌道に向かっている。探査機の各機器は順調で、推進システムにはまだ燃料がある。NASAは、今後この探査機をOSIRIS-APEXと改名し、次の目標である小惑星アポフィスへと向かわせて、新たな研究に着手する予定だ。

小惑星アポフィスは、2029年4月に地球の表面から約3万kmを通過する軌道を進んでいる。これは気象衛星とほぼ同じ高度で、過去1000年の間で最も小惑星が地球に接近する機会とされている。そして、地上の場所によっては肉眼でアポフィスを見ることもできるかもしれないと言われている。

今回のカプセルについては、ヒューストンにあるNASAのジョンソン宇宙センターの特別施設に運ばれたのち、月曜日か火曜日に開梱される模様だ。科学者たちにとっては、首を長く伸ばして待ちわびた宅配便がようやく届いた気持ちかもしれない。そして、中にある貴重な物質を化学的分析にかけ、その性質を理解する作業がこれから始まることだろう。ローレッタ氏は「われわれは12年以上をかけてこのミッションを構築、テスト、設計してきた。つまりこれは非常に長い旅の終わりであり、次の章の始まりなのだ」と述べた。

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