【連載】佐野正弘のITインサイト 第75回

「Xperia 5 V」で若い世代の獲得目指すソニー、厳しい市場環境を乗り越えられるか

前回、コンセプトが大きく変化したコンパクトハイエンドモデルの1つとして取り上げた、ソニーの「Xperia 5 V」。そのXperia 5 Vが、10月から本格発売されることを受け、ソニーは9月20日に記者説明会を実施。製品の特徴や販売戦略などについて改めて説明している。

ソニーが「Xperia 5 V」メディア向け説明会を開催。製品特徴や販売戦略をアピール

改めてXperia 5 Vについて説明すると、同社のフラグシップモデル「Xperia 1」の特徴を、コンパクトなボディに凝縮した「Xperia 5」シリーズの最新機種。それゆえ、Xperia 1シリーズの最新モデル「Xperia 1 V」の最大の特徴でもあった、ソニーが新たに開発したイメージセンサー「Exmor T for mobile」を採用するほか、チップセットもクアルコム製ハイエンド向けとなる最新の「Snapdragon 8 Gen 2」を搭載するなど、可能な限りXperia 1 Vと同等の性能を実現しようとしている。

ソニーの新機種「Xperia 5 V」は、「Xperia 1 V」と同じイメージセンサー「Exmor T for mobile」を搭載したコンパクト・ハイエンドモデルだが、従来とは大きく変化した点が多い

一方で大きな違いとなるのは、カメラが2眼に減っていること。具体的にはXperia 1 Vや、従来のXperia 5シリーズにあった望遠カメラが削除されており、その代わりに広角カメラの4,800万画素という高い画素数を生かし、その一部を切り取ることで光学2倍ズーム相当の撮影をできるようにしている。

従来のXperia 5シリーズとは違ってカメラは広角・超広角の2眼構成に変更。代わりに広角カメラの画素数が向上したことを生かして光学2倍ズーム相当の撮影をできるようにした

この手法は、アップルの「iPhone 15」などでも採用されているスタンダードなものだが、とりわけカメラに主眼を置いてスマートフォンの強化を図ってきたソニーが、Xperia 5 Vでカメラを減らす方向へと舵を切ったのは、大きな方針転換といえるだろう。

なぜソニーは、Xperia 5 Vで方針を大きく転換するに至ったのか。その理由として、同社の共創戦略推進部門 モバイルコミュニケーションズ商品企画部 統括部長である越智龍氏は、「Xperia 5シリーズのターゲットを広げるため」と説明している。Xperia 5シリーズの従来の顧客は20~60代と幅広いというが、ターゲットをより若い世代、具体的には高校生から大学生、新社会人にまで広げるのが最大の狙いであるという。

説明会に登壇するソニーの越智氏。Xperia 5 Vでの方針転換は、ターゲットを若い世代にも広げる狙いが大きいようだ

それだけに重点を置いたのがカメラであるという。先にも触れた通り、Xperia 5 VはXperia 1 Vと同じ、Exmor T for mobileを搭載しているが、シャープの「AQUOS R8」やサムスン電子の「Galaxy S23」など、他社のハイエンドモデルの下位クラスを見ると、いずれもカメラの性能を落としてコストを引き下げる傾向にある。

にもかかわらず、あえて上位モデルと同じイメージセンサーを搭載したのには、とりわけ若い世代が場所を選ばず目の前で起きた出来事を撮影し、シェアする傾向にあるためだと越智氏は説明している。その一方で望遠カメラを削除することで、若い人でも購入できる価格水準に抑えたといえる。

ハードだけでなく、ソフトウェアの面でも若い世代の利用を意識し、Xperia 5 Vで初めて搭載した機能がいくつか追加されている。1つは、カメラの「ボケ」機能で、撮影するだけで一眼レフカメラのようなボケを再現できるという。越智氏によると、そうしたボケ感のある撮影は、Xperia 1 Vユーザーであればカメラの機能を使いこなしたり、パソコンで加工したりすることで実現できるが、カメラに詳しくない人には難しいものだ。

そうしたことから、若い世代がXperia 5 Vを使ってそうしたボケ感のある写真をSNSなどで共有し、「どんなカメラで撮ったの?」という反応が来ることを期待していると越智氏は話している。

一眼レフカメラのようなボケを再現できる撮影機能はXperia 5 V独自のもの。手軽に高品質の撮影ができることで関心を高めたい狙いがあるようだ

そしてもう1つが、Xperia 5 Vに新たにプリインストールされたアプリ「Video Creator」だ。これは、撮影した写真や動画を組み合わせてショート動画を簡単に作成できるアプリなのだが、スマートフォンに詳しい若い世代は、自身で加工するアプリを探して使いこなす傾向にあることから、プリインストールでそうしたアプリを用意することが無駄になってしまうように思える。

だが、ソニーが女子大生に実施した調査によると、「どの動画編集を使ったらいいかわからない」「使ってみたけれど使い方がよく分からず、結局使わなかった」という人が、67%いたとのこと。動画編集をしたいけれど、面倒だと感じている人が意外と多いことから、そうしたアプリの搭載が重要な意味を持つようだ。

ショート動画を作成する「Video Creator」もXperia 5 Vで初めて搭載されたもの。こちらも動画編集アプリが難しいという若い世代の声を受けて用意されたものだという

国内プロモーションに「NiziU」を起用、若い世代をターゲットとした施策を展開

本体の機能・性能だけでなく、プロモーション面でも若い世代を明確にターゲットとした施策を展開するようだ。Xperia 5 Vは、「新しいスマホ。新しいワタシ。」というキャッチフレーズを打ち出し、発表当初から若い世代の利用を前面に打ち出していたが、国内でのプロモーションではそれに加えて、若い世代に人気のアイドルグループ「NiziU」を起用することが明らかにされている。

そのプロモーション手法も、SNSを中心にNiziUが登場するWebCMを展開するなど、オンラインを主体としたものとなるようだ。こうした点からも、インターネットに馴染みが深い若い世代を意識している様子がうかがえる。

若い世代に向けたプロモーションとしてNiziUを起用。同じソニーのワイヤレスイヤホン「LinkBuds S」との同時プロモーションを実施するとのことだ

とはいえ、若い世代を獲得するには非常に大きなハードルがあるのも確かで、最大の障壁はiPhone、ひいてはiOSの存在だ。日本の若い世代は、iPhoneの岩盤支持層でもあり、iOSのエコシステムに完全に取り込まれていることから、そもそもAndroidスマートフォンに全く興味を示さない傾向が強い。

それゆえ、多くのAndroidスマートフォンメーカーが、若い世代の獲得に苦戦しているのが現状だ。韓国のサムスン電子も、縦折り型の「Galaxy Z Flip」シリーズを主体として、国内で若い世代へのプロモーションを強めているが、iPhoneの牙城を崩すにはなかなか至っていない。

そしてもう1つ、厳しさを感じさせるのが販路である。Xperia 5 Vはソニー自身が販売するのに加え、従来同様携帯各社から販売することが発表されているのだが、販売するのはNTTドコモとKDDIの「au」ブランド、そして楽天モバイルの3社であり、ソフトバンクの取り扱いはないようだ。

また、auでの販売もオンラインに限定する方針が打ち出されており、auショップ店頭での販売はなされない様子である。なぜ2社が販売しない、あるいは販路を絞る方針を打ち出したのかといえば、やはりスマートフォンの値上がりで10万円を超えるスマートフォンが売れにくくなっているからと考えられ、15万円前後で販売されるXperia 5 Vも、たくさん売るのは難しいと判断したのだろう。

だが携帯各社からの販路が狭くなれば、その分若い世代へのアピールも難しくなってくる。販路の狭さをいかにカバーしながら、最もAndroidスマートフォンを売るのが難しい若い世代をいかに取り込むかという難題に、ソニーがどこまで応えられるのかが注目される。

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