【連載】佐野正弘のITインサイト 第9回

消費者不在の「携帯電話バンド問題」、強硬策回避で一安心も問題再燃に懸念

先日、携帯電話会社から購入したスマートフォンが、他社の主要周波数帯に対応していないことが多く、乗り換えの障壁になるという「バンド問題」について、本連載で取り上げたことは覚えている人もいるかと思う。そして2022年5月末、バンド問題に関して大きな進展があった。

バンド問題の議論がなされている総務省の有識者会議「競争ルールの検証に関するWG」の第31回会合で、バンド問題について総務省が一定の方向性を示したのだ。同WGではこれまで3回にわたって、携帯電話会社やメーカー、業界団体などからヒアリングを進めてきたが、それらの意見などを受ける形で、バンド問題に関する今後の方針が出されたわけだ。

バンド問題について、メーカー側のヒアリング内容が一部公開

これまでのヒアリングで、携帯各社からメーカーに対して対応周波数帯を絞るよう圧力をかけていることはなく、他社の主要周波数帯への対応はメーカー側に任せていることが明らかにされていた。また、携帯4社のバンドに対応することをルール化してしまうと、端末の開発コストが増して端末価格にも影響が出るとの意見も出ていた。

そこで注目されたのが、実際に端末を開発しているメーカーの、バンド問題に対する考え方である。実際、先のWGの第29回会合では、メーカーに対するヒアリングが実施されて大きな関心を呼んだのだが、経営上の秘密などもあってその内容は非公開とされ、意見を直接聞くことはできなかった。

そうしたことから第31回会合では、先のメーカーに対するヒアリング内容を、メーカーを特定できない形で抜粋し、改めて公開している。その内容を見ると、やはり端末の対応周波数帯は販売する携帯電話会社からの要求仕様に基づいて決めている一方、他の携帯電話会社の周波数への対応については、端末サイズやコストなどの影響を考慮し、経済合理性や、周波数帯の性質、端末の価格帯、そして開発コストの効率化などを考慮して決めているとのことだ。

「競争ルールの検証に関するWG」第31回会合資料より。携帯他社の周波数帯への対応については、経済合理性やコスト効率化など、メーカー側の独自判断によって決められているという

携帯電話会社から、他社周波数帯への対応について指示がなされているかという点についても、過去については把握できていないという声もあったようだが、多くのメーカーは指示を受けておらず、独自に判断していると答えている。少なくとも現在は、対応周波数帯について、携帯電話会社の影響を受けているわけではない様子だ。

複数の周波数帯対応で生じる、コスト面への影響は

そして最も注目されるのが、多くの周波数に対応することによるコスト面の影響だ。この点についてメーカー側からは、複数の携帯電話会社の周波数帯に対応することで、開発期間の長期化によるコスト増や調達する部材のコスト増、そして試験や認証にかかるコストの増加につながるため、やはり影響は大きいと答えている。

同じく「競争ルールの検証に関するWG」第31回会合資料より。他社周波数帯対応によるコスト面の影響は、部材や開発、試験などさまざまな部分であるとのことだが、端末の価格帯によっても影響は違ってくるという

またコスト面で注目されるのが、端末の価格帯によって対応のしやすさが違うという意見が出ていることだ。高価格帯の端末は、元々多くの周波数帯に対応した部材を用いることから、周波数帯追加のコストは大きくないというが、低価格帯端末の場合は最小限の構成に対応した部材を用いているため、周波数帯を増やすとコスト面での影響が大きくなるようだ。

携帯大手3社から販売されるソニーの最新機種「Xperia 1 IV」は、従来同社が携帯電話会社向けモデルでは対応しなかった、他社のプラチナバンドに対応したことで話題となったが、ハイエンドモデルは比較的対応周波数帯を広げやすいようだ

そうしたことから、全ての携帯電話会社の周波数帯に対応するようルール化することについては、乗り換えしやすくなるメリットがある一方で、「低価格帯の端末ニーズに沿えない可能性がある」「利用者の選択肢をなくすことになる」といったデメリットがあるとのこと。ルールによって対応周波数帯が厳格化すると、メーカー側にかかる負担の増加につながるため、肯定的ではないようだ。

携帯端末の周波数対応について、ユーザーの意識調査を実施

ただ多くの消費者が、端末価格が上がってもいいから携帯4社の周波数帯に対応したスマートフォンが欲しいというのであれば、ルール化も現実味が帯びてくるし、メーカー側も何らかの対応が求められるだろう。そこで総務省は先のWGの第31回会合で、携帯端末の対応周波数に関する利用者の意識調査をインターネット上で実施した結果を公表している。

20~70代の男女6,000人に実施したというこの調査結果を確認すると、「端末によって対応周波数が異なる場合がある」ことを知っている人は33.9%と、全体の約3割に達しているとのこと。だがそのことで、実際に影響を受けた人は6.2%と、かなり少ないことが分かる。

同じく「競争ルールの検証に関するWG」第31回会合資料より。端末によって対応周波数帯が違うことを知っている人は3割強だが、実際に影響を受けた人は1割未満となっている

また、全携帯電話会社の周波数帯へ対応することによる価格上昇をいくらまで許容できるかという質問に対しては、63.2%が「許容できない」と回答している。一連の結果からは、消費者がバンド問題の解決より、端末価格を重視している様子を見て取ることができるだろう。

同じく「競争ルールの検証に関するWG」第31回会合資料より。6割以上の人が、全ての携帯電話会社の周波数帯に対応することによるコスト上昇を「許容できない」と答えている

バンド問題を解消すると端末価格が上がるし、それを許容できる消費者も多いとは言えない。そうした結果を受けて総務省も、バンド問題の解決に向けて強硬策を取ることは諦めたようだ。実際、先のWGの第31回会合でも、総務省は「現時点では、国民利用者の多くがこうした問題を認識していない状況にあり、携帯端末がどうあるべきといった議論が熟しているとは言えない」「ルール化・標準化しないと解決できないほど、広く市場全体に問題が顕在化しているとまでは言えない」としている。

それゆえ総務省は、当面バンド問題についてルール化することは見送り、ガイドラインによって複数の携帯電話会社の周波数帯に対応することを、可能な範囲で促していく方針のようだ。ただそれだけに、バンド問題は今後も残ることから、端末の対応周波数帯やそれによって生じる問題について、消費者に分かりやすく情報提供を求めることもガイドラインに盛り込むよう検討するという。

最終的にどのようなガイドラインが打ち出されるかは、今後の議論の末に決められるため、現時点では分からないが、ひとまず総務省が業界の現実を直視し、強硬策に走らなかったことは評価できるだろう。

ただ今回バンド問題が俎上に上がった背景には、有力政治家の声によって総務省が対応を迫られたという話もあるだけに、政治的影響で再びこの問題が蒸し返される可能性があるというのが、非常に気がかりでもある。

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