ドラキュラは完全なフィクションではなかったかも?

ドラキュラ伯爵のモデル「串刺し公」、血の涙を流す病で苦しんでいた? 手紙の分析から浮上

Image:Analytical Chemistry

1897年にブラム・ストーカーが発表した怪奇小説『吸血鬼ドラキュラ』に登場するドラキュラ伯爵は、15世紀のワラキア(現在のルーマニア南部)に棲んでいた実在の君主ヴラド3世のエピソードから一部影響を受けているとされる。ヴラド3世は主に処刑方法として人を杭に串刺しにすることで知られていた。

この「串刺し公」については多くの歴史的文書に記されているが、最近の論文によると、このルーマニアの君主が書いたとされる手紙に最新のプロテオーム解析(Proteomic analysis)を施したところ、正に吸血鬼のように、目から血の涙を流すヘモラクリアと呼ばれる病気に苦しんでいた可能性が示され、さらに皮膚と呼吸器の疾患も抱えていた可能性があることがわかった。

イタリア・カターニア大学の研究者らからなる研究チームは「初めて行われたこの研究が、ヴラド3世の健康状態に光を当てるのに役立つものになった」と述べている。

ヴラド3世は、その生涯の多くの時点で戦争に巻き込まれ、敵に対する彼の残虐な行い(一説には数万人を串刺し処刑にしたとされる)が、ドラキュラのような怪物のイメージを醸成したと考えられている。また、書物の記述によれば、ヴラド3世は血の涙を流したという記述がいくつか残されている。

そして、研究者らはこのヴラド3世が書いたとされる、現存する3通の手紙に注目した。このうち2通は1475年に書かれたもので、そのうち1通にはヴラド3世の個人的な署名が含まれている。またこの2通は500年以上にわたり書庫に保管され、いかなる類いの修復作業も受けていないものだ。

残る1通の手紙は1457年に書かれており、20世紀にブカレストで修復されたが、その作業は化学的な汚染を最小限に抑えつつ行われたとされている。

これらの古い手紙の成分分析は、なんらかの物質を抽出することと引き換えに、現物に取り返しの付かない損傷を与える可能性が高い。しかし、エチレン・ビニル・アセテート製の特殊なフィルムの開発により、書物の表面を損傷することなくタンパク質とその他の分子を抽出することが可能になった。

研究チームは3通の手紙にこの技術を用い、その結果を質量分析で解析した。すると、そこからは数千のペプチドとタンパク質が発見された。研究チームはそのなかから人由来の生物的反応に集中することにした。それでもおそらく、数世紀にわたって手紙を扱った多くの人々の痕跡が残っているため、最も劣化が進んだ(つまり古い)人間由来の材料のみを選びだしたと研究者は述べている。

そして、その結果は興味深いものだった。研究者たちが見つけたタンパク質の2つは、慢性の肺や副鼻腔の感染症を引き起こす遺伝性の呼吸器障害を示唆していた。また、炎症プロセスと関連するタンパク質に属するペプチドも発見された。これにより、皮膚や呼吸器の障害、またはその両方の疾患を抱えている可能性が高まった。

さらには、網膜と涙のタンパク質に関連するペプチド、そして血液タンパク質も見つかった。これらからわかることは、ヴラド3世が血の涙を流したとされる説が、一部ながら真実を含んでいた可能性を示唆するものと言えるだろう。

もちろん、今回の分析だけでは確定的なことは言えないが、分析で得られた発見からは、少なくとも串刺し公がその生涯の最後の数年は、血が涙に混ざる病気であるヘモラクリアに苦しんだ可能性があることがわかった。ヴラド3世はその残虐性だけでなく、病気においても吸血鬼のような不気味な症状を持っていたかもしれないということだ。

ちなみに、検出されたタンパク質や細菌からは、ヒトの腸内フローラの一部を形成するありふれたものも多かったが、腸内や尿路における感染を示唆するものもあった。なかには、ペストの原因であるペスチス菌に関連するペプチドも見つかった。その他にはハエ、ダニおよび蚊によるウイルス、そして腐敗した果物に生えるカビの種類の存在も発見された。

ただ注意すべきは、見つかった人間由来のタンパク質が、文書を取り扱った他の時代の、他の人々からのものである可能性が完全に排除できないところだ。

それでも、今回の研究は、古の書物の現物があれば、そこに今回と同様の手法を用いて、過去の生活がどのようなものだったかなどの理解をより深められる可能性を示している。

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