スクラップが山積みになっている月面は見たくない
月基地の活動で出る金属ゴミを3Dプリント材料に変える方法、欧州で開発中
オーストリアのスタートアップ企業Incusが、将来人類が月面基地での活動を開始した際に発生するスクラップを大きく減らす技術を開発中だ。
従来の宇宙ミッションは、そのほとんどが使い捨ての機材で行われてきた。人工衛星の打ち上げに使うロケットでさえ、SpaceXがFalcon 9ロケットのブースターの再利用を実現するまでは、分離したが最後、そのまま廃棄されていた。しかも宇宙ロケットには十分な強度なども求められるため、しばしば希少で高価な材料のチタンなどが用いられてきた。
しかし、月面での生活が現実になれば、人々は月と地球を行き来を実現させるはずだ。その場合、少なくとも月面で新しいロケットを作ることは難しいため、再利用可能な宇宙船およびロケットが必要になる。一方でIncusは、月面での活動で発生する使用済みの宇宙船や探査機器などの金属廃棄物を、有用な部品などの材料として再利用することを目指している。
ウィーンに拠点を置くIncusは、金属とセラミックスから必要な部品などを作り出すため、Lithography-based Metal Manufacturing(LMM)と呼ばれる3Dプリント技術を開発している。LMMプロセスでは、金属部品をつくるために金属廃棄物を溶かして使用するが、このとき内部に微細な空隙を作りだし、従来の金属射出成形部品に匹敵する強度を備えた構造体を生成できるようにした。さらにセラミックス混合物として用いることで耐摩耗性を向上させ、全体の機能性を高めている。
月面でこのような高強度な部品を3Dプリントできるようになれば、故障した月面着陸機や、月面探査車を現地で修理することも可能になる。さらに、使用されなくなった宇宙船から様々な部品を流用し、構造部をLMM技術で構築することで、新たに別の宇宙船を作るといったことも可能になるかもしれない。
ただし、リサイクルを繰り返していくと次第に金属成分に対して、混合物の成分が増してしまうだろう。Incusは欧州宇宙機関(ESA)と共同で、LMMでリサイクルして作ったオブジェクトにおける月の土壌の濃度が、原料の粘度や流動性に与える影響を調べた。
その結果、「LMM技術が材料に再生粉末を使用し、持続可能な廃棄物ゼロのワークフローを現実に提供可能であることが証明できた」とIncusのCEOであるGerald Mitteramskogler氏は述べている。
また、ESAでこのプロジェクトを担当しているMartina Meisnar氏は、「人類が月に戻り、基地を建設するという課題を考えると、現地資源をいかに活用するかという問題がいま、非常に注目を集めている」と述べた。そして「LMMのような技術が、この課題克服をサポートする非常に良い候補であることを示している」とした。
月面で本格的に人類が活動できるようになるには、必要なエネルギーや、食糧、居住施設の確保など様々な課題をクリアする必要がある。もちろんそこではゴミの処理も必要になる。この研究は地味に見えるかもしれないが、地球とはまったく異なる過酷な環境で継続的な活動を可能にするためには、やはり必要な技術分野といえそうだ。
- Source: ESA
- via: Interesting Engineering