SiriをChatGPT風に強化?

アップル独自AI「Apple GPT」開発中の報道。詳細不明も株価は急上昇

Image:Tada Images/Shutterstock.com

昨秋のChatGPTリリースで始まった大規模言語モデル(LLM)を使ったテキスト生成AIブームは、瞬く間に世界中に広がった。その高い作文能力とともに、非常に紛らわしいウソを吐くことなどで、様々な分野でトラブルを引きおこし、またいくつかの業種では人の仕事を奪うとの懸念もわき起こっている。

しかし、そんな「GPT」ブームなどどこ吹く風とばかりに、これまで動きを見せていなかったのがアップルだ。アップルは5月に発表した2023年度第2四半期決算報告で売上高が前年同期を下回っていたものの、サービス部門は依然として売上げを伸ばしていることを発表している。そして、Googleやマイクロソフトを初めとする業界の巨人たちが生成AIの覇権を争う中、6月には会社の時価総額を3兆ドルにまで膨脹させていた。

ただ、表向きには生成AIに関する動きを見せていないアップルも、水面下では生成AIに関する準備は進めており、5月には求人情報からAIに関する知識や開発能力を持つ人材を同社が集めていることが一部で報じられていた

そして今回、Bloombergのマーク・ガーマン記者は、アップルが独自の生成AI戦略を用意していると報じた。ガーマン氏によると、Appleは独自開発のAIチャットボットを社内でテストしており、一部のエンジニアはそれを「Apple GPT」と呼んでいるとされる。

Apple GPTは、昨年からアップルが開発を進めている、LLM用フレームワーク「Ajax」を使用して開発されており、これを用いることでさまざまな機械学習プロジェクトを共通の基盤上に構築できるとのこと。そしてテスト環境では、すでに検索機能やSiri、アップルの地図アプリなどにこのAI技術の統合を始めており、ChatGPTのようなツールを追加する基盤として機能していると、Bloombergは伝えている。なお、現在は潜在的なプライバシーへの影響への対応などに複数のチームで取り組んでいるという。

とはいえ、ティム・クックCEOは5月に、生成AIにはまだまだ「解決すべき問題がたくさんある」と述べていた。また6月上旬にはインタビューでAI技術を「慎重に検討している」と語るなど、アップルがAIシステムに関しては非常に用心深いことがうかがえる。特に開発環境には特別な許可を持つ者しかアクセスできなくしており、さらに重要なポイントとして、このAIシステムによる出力内容は、顧客向けの機能開発に使うことは許されず、たとえば製品のプロトタイピング支援などの用途に制限されているのだとか。

つまり現時点でアップルは、Apple GPTと呼ばれるような生成AIチャットボットを一般向けにリリースする計画ではないかもしれない。なお、Apple GPT(仮)のプロジェクトを率いているのは、元GoogleでAIのエキスパートとして知られるジョン・ジャナンドレア氏とのこと。ジャナンドレア氏はもともとSiriをはじめとする機械学習を利用した機能の開発を監督するためにアップルに来た人物であることを考えると、Apple GPTはSiriの大幅な機能強化として現れる可能性も考えられる。

ガーマン氏はこのほか、アップルが当初は自社で生成AIを開発するのでなく、OpenAIと大規模な契約を結ぶ選択肢を検討していたとも伝えている。またガーマン氏の情報提供者は、アップルが2024年中にも「AI関連の重要な発表」を行うことを検討していると語ったとのことだ。

なお、今回の報道はあくまでうわさのレベルであり、本当にアップルがApple GPTと呼ぶような技術、機能、製品を開発しているという確証はない。しかし、Bloombergの記事が出たことで、水曜日のアップルの株価は193ドル台から197ドル台に急上昇した。その後は194~195ドル台に落ち着き、緩やかに下降線を描いて推移している。

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