生成系AIは著作物を「食料」にしている

全米8500人以上の作家が生成系AI大手に向け公開書簡。「著作物の利用許可および補償」を求める

Image:Ole.CNX/Shutterstock.com

もっか社会現象ともなっているGPT-4やBardといった大規模言語モデル(LLM)に基づく生成系AIは、人間のクリエイターらが創造した莫大なデータを学習することで成立している。

その結果として生成されたコンテンツが著作権を侵害するかどうかはグレーゾーンであり、例えばゲーム配信プラットフォームSteamを運営するValveは「著作権を侵害しないデータから学習したものに限る」との姿勢を打ち出している。現在の著作権法が、「著作物から学習する生成AI」を想定していなかったため、生じた間隙である。

そんな状況のなか、8,500人以上のフィクションおよびノンフィクション作家、詩人らが、LLMを運用する企業が許可や補償なしに自分たちの文章を使っていると非難する公開書簡を発表した。その宛先はサム・アルトマン(OpenAI)やスンダー・ピチャイ(Google)、マーク・ザッカーバーグ(Meta)やサティア・ナデラ(Microsoft)といった、名だたるハイテク企業のトップらである。

書簡によれば「これら技術は、我々の文章、物語、文体、アイディアを模倣し、再利用している。著作権で保護された何百万冊もの本、記事、エッセイ、詩は、AIシステムに “食料” を提供している。終わりもなければ請求書もないのだ」とのことだ。

実際、プロの著作家による膨大なテキストなしには、AIが紡ぎ出す文章は極めて幅が限られ、平凡なものになってしまうだろう。「著者を引用し、模倣する」ことが前提となっているのに、AI開発者達は「これらの作品の出所につき、実質的に対処していない」という。

書簡では、それら元データは書店や図書館など様々あるとしつつ、1つ確かなことは「出版社に出向いてライセンス供与を受けなかったということだ」と主張されている。

そこで批判の根拠の1つとされているのが、最近の米最高裁によるアンディ・ウォーホル美術財団対リン・ゴールドスミスでの判決である。その争点は、写真家のリン・ゴールドスミスが撮影したプリンスの肖像写真を元にアンディ・ウォーホルが制作した作品が、著作権侵害に当たるかどうか?ということ。結果はウォーホル側が敗訴し、フェアユースに関する重要な判例となった。

著作家らは、この最高裁判決が「商業性の高い(著作物の)利用がフェアユースに反することを明確にしたばかりか、どの裁判所も違法に入手した作品の模倣をフェアユースとしてを許さないだろう」と主張。

ことさらに脅威が強調されているのは、有名作家よりも駆け出しの新人作家に対してである。公開書簡は、大規模出版の複雑さと狭き門のために、執筆で生計を立てられる著者が減少しているなか、「特に若い作家や、過小評価コミュニティ(小さい割合しか持たない集団)からの声」にとって、耐え難い状況であると警告している。

そしてハイテク各社には、以下の事項が要求されている。

  • 我々の著作物を生成系AIで利用する許可を得ること
  • 生成系AIにおける、過去および現在進行中の著作物の利用に関して、作家に公正な補償をすること
  • AI生成における著作物の使用につき、その生成物が現行法の下で権利の侵害となるか否かにかかわらず、作家に公正な補償をすること

ただし、法的な措置は執らないという。書簡の署名者であるメアリー・ラッセンバーガー氏は「訴訟には途方もない金額がかかる。裁判には本当に長い時間がかかる」とコメント。しかし「AIは今、著者に危害を加えている」とのことで、公開書簡の形を取ったようだ。

関連キーワード: