配達ドライバーからは「過剰な監視だ」「ディストピアだ」との声も

米Amazonが車内AIカメラで配達ドライバーを監視する動画が流出

Image:Lee Earle/Shutterstock.com

米Amazonが配達ドライバーを車内カメラで監視している現れとして、行動を追跡している生々しい動画の流出が相次いでいる。同社が米国内の配送サービスパートナー(DSP)の従業員らを監視していることは公式に認められていたが、こうした外部への漏えいは今まで見られなかったことだ。

大手掲示板Redditに投稿されたビデオには、様々な事務用品が散乱した木製の机が映っている。その上にあるディスプレイで再生された動画を、他のスマートフォンが撮影したものが公開されている格好だ。

動画には、Amazonの配達ドライバーが配送車の運転席の後ろに設置されたカメラで録画され、窓から身を乗り出して顧客に話しかける姿が映し出されている。ドアを開けると、小さなフレンチブルドッグがシッポを振りながらバンに飛び込み、ドライバーは大喜び。同乗している(カメラの後ろにいる)人は少し笑っている。

一見すればのどかな光景だが、AIカメラはドライバーを緑色のボックス内に捉え、動きを追跡し続ける。その下にはディスパッチャ(運行管理者)に送られる動画の長さを示す黄色い線があり、上にはタイムコードと「0 MPH」(時速0マイル)という車の速度メーターがある。

この動画はどこで撮られたのか? ディスプレイのある机の配置は、DSPを請け負う中小業者のそれと一致しているようだ。通常DSPはAmazonの配送拠点で業務を行っており、倉庫内の一角に動画にあるようなデスクを与えられる。そこからルートを選び、ドライバーを派遣し、カメラを通じて業務を監視するわけだ。

本動画は過去2週間にわたり、Amazon DSP関連のサブレディット(r/AmazonDSPDrivers)に投稿されてきた多くの車内監視ビデオの1つに過ぎない。それらの多くが撮られた本人が投稿したものでないのは明らかで、すでに激務を担っているドライバーらが常に監視されているという事実を浮き彫りにしている。

少なくとも米国の全DSPドライバーらが、AI搭載カメラにより自らの位置情報や生体情報へのアクセスをAmazonに許可する「生体情報同意書」への署名が義務づけられていることは既報である

その当時、Amazonはこれが安全性だけを目的としており、労働者はプライバシーについて心配する必要はないと主張していた。広報担当者は「これらのカメラが安全以外の目的で使用されているという利己的な批判者を信じてはならない」とまで語っていたのだ。が、これら流出した動画の数々は、まさにプライバシーが侵害されている可能性を示している。

Redditでは「彼ら(Amazon)はすでに十分な監視装置を我々に貼り付けている。カメラは監視しすぎだし、テクノロジーの侵略的な使い方だ。彼らは我々が車を運転し、仕事をこなし、資格を得る能力を35日間もテストした。カメラがなくても信頼できるはずだ」だとの声や、まるでディストピアだとの批判も上がっている。

Amazonが使っているカメラはNetradyne Driver-iというメーカー製で、ドライバーの速度や位置、道路上での行動を監視するAIに対応している。道路とドライバーの両方を記録でき、スピード違反や急ブレーキ、急加速や一時停止無視、赤信号無視、さらには電話をかけていたり、シートベルトをきちんと着用していない場合も検知するという。ただし、違反行為や脇見運転を誤検知する場合があることも報告されていた

このカメラにつき、Amazon広報担当者は「安全上の問題が発生すると、車載カメラが自動的に動画をアップロードする」と回答。さらに配送サービス・パートナーは、動画を従業員と共有することも選べるが、プライバシー保護の観点から外部に公開することはプログラムのポリシーに違反すると回答している。

なぜ突然、動画が頻繁に流出するようになったかは明らかではない。あるDSP現役ドライバーによると、ドライバー本人は動画にアクセスできず、出来るとすればアマゾン、Netradyne、関連DSPだけだという。そのアクセス・ポリシーが変更されたという話は聞いていないそうだ。

常時AIカメラによる監視がドライバーの負担になることに加えて、プライバシー保護ルールも守られていない可能性が高いというわけだ。日本のDSPでも同様のことが起こっているかどうか不明だが、すでに生活インフラの一部となっている流通網を支えるドライバーらが少しでも働きやすくなるよう願いたいところだ。

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