いわゆる「キャッツアイ」から位置情報などを発信

道路上の反射マーカーをIT化、自動運転をより高精度にする研究

Image:Carlos Jones/ORNL, U.S. Dept. of Energy

自動運転車の開発は年々進んでおり、最近では限定的ながらレベル3の自動運転機能を備えた自動車も発売されるようになってきた。しかし、完全自動運転車の多くが採用しているLiDARシステムによる自律走行で問題になるのが、積雪や濃霧で前方や道路上のオブジェクトが認識困難になったときだ。

生身のドライバーでも運転が難しいそんな状況だが、この問題を解決するための技術を、米エネルギー省のオークリッジ国立研究所(ORNL)、西ミシガン大学は開発している。

研究者らは、高速道路やその他いたる場所で路上に設置されている反射マーカー(道路鋲、キャッツアイなどとも呼ばれる)に着目。この単純な一種の標識にマイクロチップ、無線トランシーバー、バッテリー、アンテナを内蔵させてIT化し、GPS座標情報を含む様々なデータを秒間50回、繰り返し送信させるようにした。

この情報を利用することで、自動運転車は継続的にデータを受信し、マーカーごとに納められたチップからの情報と車載のソフトウェアのアルゴリズムによって、三角測量を用いてまったく視界のない状況でも道路の走行可能な領域や進行方向などを把握できるようになるという。

このITマーカーの試作品を製作した研究チームは、電波干渉の少ない、モンタナ州の人里離れた国立公園内でフィールドテストを実施。自動運転車がこのマーカーからの情報を目標としていた100mの約5倍、およそ500m離れた場所からでも受信できることを確認した。研究者のひとりは「地形や積雪によらず、これほどまでの距離で通信ができたことは驚きだ」とし「将来的にこの技術を実用化していくための具体的な方法もいくつか見つかった」と述べた。

このマーカーによる道路に関する情報の提供は、LiDARやレーダーなどを使用する車載システムが必要とする消費電力を、最大90%削減できるとORNLは述べている。たしかに、路面から直接道路の状況に関するデータが自動運転車に送信されるのなら、LiDARやレーダーなどのセンサー類やそのデータを分析するソフトウェアももっと簡潔にでき、コンピューターの計算負荷も低く抑えられるかもしれない。

ORNLは、将来的にこのマーカーから位置情報だけでなく、車線の通行区分・閉鎖状況や交通量、気温、湿度といった情報を送信できるようにすることも考えているとした。

この試作マーカーは電力を内蔵のバッテリーから供給しているが、電池交換は1年に1度程度で済むという。形状などを工夫すれば、太陽電池を使って電池交換を不要にすることもできそうだ。

研究者は、自動運転技術の開発課題はソフトウェアにあると考えられてきたと説明し「過去10年間、多額の資金がソフトウェアの改良に投じられてきた結果、ソフトウェアとイメージングデバイスだけでは簡単にそれらの課題を解決できないことがわかった」と述べている。そして「おそらく、政府の交通当局などとの連携によって、インフラベースのハードウェアを改良する、より地道なアプローチが、エネルギー消費を抑えつつ、交通事故ゼロの自動運転車を実現する方法になる」と、その考えを述べている。

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