宇宙向けに開発、一部が故障してもミッション達成可能に

三角のモジュールを合体、“自在に変形”できるロボット。その仕組みは?

Image:Christoph H. Belke, Kevin Holdcroft, Alexander Sigrist & Jamie Paik

複数のモジュールが連結して変形するロボットは、1970年代の日本製アニメロボットから映画『インターステラー』(2014年公開)の付き添いロボットTARSまで、国境を越えて広く想像されてきた夢の存在である。

このロボット「Mori3」は、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のロボット研究者Christoph Belke氏とJamie Paik氏が率いるチームが、欧州宇宙機関(ESA)の資金提供を受けて開発したものだ。機械学習と人工知能を扱う科学ジャーナルNature Machine Intelligenceに掲載された論文によると、「物理的なポリゴンメッシュを使い、より多機能な知的機械の新たな枠組みが得られると示された」とのことだ。

ここでいうポリゴンメッシュとは、本来はポリゴン(多角形の面)の集合により3DCGを表現する方式のこと。そして物理的ポリゴンというのは、実体ある三角形のモジュールを意味している。

Image:Christoph H. Belke, Kevin Holdcroft, Alexander Sigrist & Jamie Paik

Mori3では、それらモジュールで構成され、互いに連結して3Dメッシュを形成し、特定のタスクや環境に適した様々な構造を作り出せるという。要は3DCGでポリゴンが位置を変えて多様な形状に変われることを、物理世界で再現しているわけだ。なおこのロボットは、折り紙からヒントを得て開発されたとのこと。

今回の研究結果は、物理的ポリゴンメッシュのアーキテクチャが、変形システムにおいて「高度な形態的柔軟性を実現するための道筋」を提供できると強調している。さらに、このアプローチをロボットへの応用で検証し、相互に接続され分散されたインテリジェンスをもつ物理的で関節のある形態で「様々な3D形状を再現する有効性と使いやすさ」を実証したとのことだ。

そうした物理的ポリゴンメッシュ構造につき、研究者らは「将来のロボットシステムのため新たな道を開き、単一目的のシステムを複数使えない宇宙ミッションから、インタラクティブで補助的な個人用デバイスまで、あらゆるものを変革する力を持っている」とも付け加えている。

Image:Christoph H. Belke, Kevin Holdcroft, Alexander Sigrist & Jamie Paik

つまり、積載量が限られた宇宙船では宇宙通信インフラの補助や、外壁を修理する機器は別々には搭載しがたいが、変形ロボットでは1つにまとめられ、コンパクト化や軽量化が図れる。さらには日常生活で人間の話し相手や遊び相手をしたり、介護のために運搬したり、TPOに応じて自在に形が変えられるということだろう。

実際、宇宙にまつわる計画では、常に空きスペースと重量を最適化する方法が常に模索されている。この動きは、NASAが主導する「アルテミス計画」(月面着陸)や火星など、より遠い場所に人類を送り出そうとする取り組みにより加速することになるだろう。

今回の研究成果を含め、そうした試みはどれもプロトタイプの域を出ていない。だが、NASAやESAをはじめ多くの宇宙関連機関は、変形・合体機構により複雑なミッションを効率化できる可能性を認めている。

たとえば2022年にElectronics誌に掲載された研究では「モジュール式ロボットの一群を太陽系の興味深い地域に送り、再構成することで、予期せぬ障害物を含む様々な地形に対応可能となる」と述べている。

そうした再構成可能、つまり合体・変形できるモジュールを使うことで、ペイロード質量や必要な推進剤(酸化剤と燃料)も減らせる。そしてユニットの一部が故障しても「他のユニットはミッションの多くの目標を達成できるはず」とのことだ。

つまり、数十ものモジュールが合体して様々な形態が取れるなら、数が減ったとしても別の形態を選べばいい、ということだろう。アニメにルーツを持つ変形・合体ロボットが、宇宙のフロンティアを切り拓くのかもしれない。

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