3ワードアドレスでピンポイント待ち合わせ

英国発のまったく新しい地図検索体験。CEOに聞く「what3words」の可能性

デジタル地図による目的地検索は地名、または住所情報を頼りに調べる方法が一般的だが、この常識を覆す「what3words(ワットスリーワーズ)」というサービスがある。創業から10周年を迎えたwhat3wordsのCEO、クリス・シェルドリック氏に独自の地図検索サービスの特徴と今後の展望を聞いた。

what3wordsのCEO、クリス・シェルドリック氏の来日機会に単独インタビューを行った

「3ワードアドレス」が地図検索に革新をもたらす

what3wordsは2013年にイギリスのロンドンに創業したスタートアップだ。社名と同名のサービスであるwhat3wordsは、世界地図を3メートル四方・57兆個のブロックに細分化して、それぞれにランダムな「3つの異なる単語の組み合わせ(3ワードアドレス)」を不変の座標情報として付与する。

3ワードアドレスの最も大きいメリットは、ある場所のロケーションを最小3メートル四方の単位までピンポイントで検索して、場所情報を共有できることだ。

例えばGoogleマップでは「東京タワー」のおおよその場所や地図に割り振られた住所がわかる。what3wordsならば、東京タワーの足もとの「東京タワー通り側のエントランス前」の3ワードアドレスを調べて、待ち合わせ場所として位置情報を人に伝えることも可能になる。

Googleマップで「東京タワー」のロケーションを検索。観光・グルメなど目的地に付随する様々な情報を参照できるところがGoogleマップの魅力
what3wordsで「東京タワー」を検索。ベースとなるGoogleマップの上に、より細かい3メートル四方のブロックにわかれたグリッドが現れ、任意の場所を選択すると3ワードアドレスを確認できる

what3wordsはiOS/Android対応のモバイルアプリ、ブラウザからアクセスできるウェブサービスを無料で提供している。

3ワードアドレスによる地図検索がもたらす革新性には、誕生以来多くの関心が寄せられているとシェルドリック氏は語る。現在what3wordsのサービスは世界193か国に展開しており、インターフェースは45の言語にローカライゼーションが済んでいる。3ワードアドレスを採用するパートナーも世界各地で増え続けている。日本では日立ソリューションズがwhat3wordsと国内の販売代理店契約を締結しているパートナーだ。

iOSとAndroid、両方のプラットフォームに対応するwhat3wordsアプリがある

モバイルアプリではタクシーの配車アプリ「S.RIDE」が早くからwhat3wordsのサービスを採り入れた。3ワードアドレスによる目的地のピンポイント指定に対応している。

地図と乗り換えのナビゲーションアプリ「NAVITIME」のiOS版では、今年の2月から日本人向けのナビゲーションアプリとして初めて3ワードアドレスをサポートしている。NAVITIMEアプリがあれば、広い公園の中にあるベンチを待ち合わせ場所として指定することも簡単だ。

NAVITIMEのiOSアプリがwhat3wordsに対応した。3ワードアドレスを検索して簡単にシェアもできる

北海道・恵庭市の取り組み。行政機関による公共サービスが採用

3ワードアドレスを日本の自治体として初めて試験導入した、北海道恵庭市の事例を紹介する。

全国の地方自治体は地域の景観を維持するための活動に、日ごろから多大な労力を割いている。景観が損なわれる理由は様々だが、恵庭市がwhat3wordsの位置検索システムに着目した理由のひとつには、自然の中に暮らす動物の死骸回収が挙げられる。市民が行政に回収を依頼する際、what3wordsアプリやiOS版のNAVITIMEアプリから3ワードアドレスを調べて、広い公園内の正確な位置を担当者に知らせることができる。

市が所有する設備の破損、倒木や水漏れなど生活のトラブルに対処するためにも3ワードアドレスが活用される。恵庭市としては担当者による対応プロセスの合理化、および迅速な問題解決につなげることに3ワードアドレスを活かす考えだ。

北海道・恵庭市では市内の美観を保全する活動を効率化するためにwhat3wordsを導入。専用フォームから回収を依頼できるようになる

恵庭市では6月中に、what3wordsによる位置検索システムの本格導入を開始する計画だ。行政機関による公共サービスとして形を成すことで多くの市民にその利便性が伝われば、他の自治体にも3ワードアドレスが広がりそうだ。

シェルドリック氏によると、日本以外の国々でも数多くの自治体がwhat3wordsの3ワードサービスを採用しているという。

「例えばイギリスでは多くの自治体が、恵庭市のように景観保護の目的で3ワードアドレスを活用しています。住所が無い地域に、不法に投棄された廃棄物の処理対策に用いられている事例もあります。また警察、消防など国による行政機関のサービスの約85%にも既に採用され、急行先の現場をピンポイントで把握する用途に使われています」(シェルドリック氏)

アメリカでもテネシー州ナッシュヴィル、テキサス州のダラスやオースティンなど都市部の警察・消防署などが3ワードサービスの活用を始めているそうだ。

カーナビゲーション連携が充実。音声操作への対応も

what3wordsと自動車関連のハードウェアの統合も進んでいる。国内自動車メーカーによるいくつかの採用事例を紹介しよう。

2020年には三菱自動車のSUV、エクリプス クロスにwhat3wordsが搭載された。当時世界で初めてオフラインでwhat3wordsを使える自動車として注目を集めた。3ワードアドレスを入力し、ナビを表示するため通信に接続する必要はない。長い住所のテキストに代わって、簡単な3つの単語を入力するだけで目的地のピンポイント検索ができる使い勝手が好評を博しているという。正確な住所が存在しないキャンピング施設やビーチなどの場所にパワフルなSUVで移動する際には、3ワードアドレスによるロケーション設定が真価を発揮する。

2022年の年末にSUBARUが発表したSUVのクロストレックもwhat3wordsを採用した。クロストレックのナビゲーションシステムは、ユーザーがテキスト入力だけでなく「音声入力」を併用して3ワードアドレスを指定できるところに特徴がある。

「what3wordsを採用いただくメーカーは当社が提供する開発ツールを使って、音声入力を含む様々なユーザーインターフェースをプロダクトに組み込むことが可能です」(シェルドリック氏)

ひとつのユニークなwhat3wordsの導入事例に日本のスタートアップ、Borderlessが開発するヘッドアップディスプレイ内蔵のヘルメット「CROSSHELMET」がある。このヘルメットはwhat3wordsの音声入力にも対応した。ヘルメットの左側面にあるタッチパネルを3秒間長押ししてwhat3words音声入力機能をオンに切り換え、3つの単語を話しかけて目的地を設定。ヘッドアップディスプレイにナビゲーションが表示される。

パートナーはさらに拡大中。アプリはApple Watch対応も

what3wordsのパートナーはますます拡大している。先日はアルパインマーケティングとの事業提携も発表された。アルパインによる車種専用カーナビ「BIG X」の専用アプリ「BIG X CONNECT」が3ワードアドレスに対応する。

使い方はまずモバイルアプリから目的地を設定する。初めて向かう先の3ワードアドレスを調べる際には、最初に行き先のランドマークの名前や住所を入力して地図に表示させてから、ブロック表示に切り替わるまで地図にズームインする。たどり着きたい場所のブロックを選択すると3ワードアドレスが特定できるので、あとはナビに転送するか、または車内でBIG X CONNECTの画面に直接タイピングして入力する方法が選べる。

アルパインのカーナビゲーションシステム「BIG X CONNECT」が「BIG X」アプリと連携してwhat3wordsの地図検索システムをサポートした

what3wordsはApple Watchにも対応した。3ワードアドレスを音声で入力すると、目的地までApple Watchのコンパスを使ったナビゲーション機能が使える。

なおwhat3wordsアプリで、現在地で「道順を表示」する機能はGoogleマップやAppleマップ、NAVITIMEのiOS版アプリとの連携に対応している。

Apple Watchもwhat3wordsアプリに対応。音声で3ワードアドレスを入力、コンパスによるナビゲーションができる

what3wordsは最初にマップから目的地の地名や住所を入力して調べる必要があるので、目的地についておおよそのロケーションが把握できればよい場面なら3ワードアドレスは不要だ。だが一方で、建物の住所はひとつでもエントランスが複数あるビルディングや駅、巨大なイベントホールなどで待ち合わせをする際など、日常生活のなかでwhat3wordsは「ふつうに役立つサービス」であることが、ある程度使い続けていると身に染みてわかるはずだ。

「日本国内でもタクシーによる乗車送迎やフードデリバリーなど、多くのモバイルサービスでwhat3wordsが使えるようになっています。まずはぜひ試していただいてから、周りの方々にも魅力を伝えてほしい」とシェルドリック氏は呼びかけた。

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