「男らしく牛乳イッキ飲み」もいけないそうです

“優勝者がミルクを飲む”インディ500の伝統にクレーム。医師団体「癌リスク高める」

Image:Grindstone Media Group / Shutterstock

F1モナコグランプリ、ル・マン24時間耐久レースと並び、世界三大レースの一角を担う、米国のインディアナポリス500マイルレースは5月28日(日本時間29日早朝)に決勝を迎える。

今年で107回を数えるこの伝統のイベントでは、約800kmのコースを最も速く駆け抜けたドライバーだけが表彰台に上がることを許され、牛乳を飲み干すのが習わしとなっている。

ところが、The Physicians Committee for Responsible Medicine(責任ある医療を求める医師委員会)なる団体が、この「勝者のミルク」に対し、牛乳は前立腺がんや乳がんのリスクを高めると主張。植物由来のミルクに置き換えるよう求める書簡を、レースを開催するインディアナポリス・モーター・スピードウェイ(IMS)宛てに送付した。書簡の写しはインディアナ州米国組合とインディアナ州保健局にも送られているほか、IMS近くの道路沿いに、牛乳を飲むことをやめるよう促す看板まで設置した。

この非営利団体の活動内容は、もともとは植物ベースの食事の普及と、医学研究における動物実験の廃止を提唱するというものだ。これだけだとインディ500のミルクにはあまり関係がないように見えるが、書簡に署名したひとりでインディアナポリス郊外の医師ヴィクトリア・アザーセン氏は、乳製品の摂取と前立腺がんとの間に関連性があるのだと主張している。さらに、この勝利を祝う儀式は見る物に「男らしさ」を感じさせるとも主張した。

地元紙Indystarによれば、たしかに世界がん研究基金と米国がん研究所による、ごく限られた研究例のなかで、乳製品と前立腺がんや乳がんの関連性を述べたものがあるにはある。だが、科学的または医学的にそれを裏付ける証拠がないことも論文で指摘されている

一方、過酷な戦いを勝ち抜いた勝者がボトルの牛乳を飲み干す姿が「男らしさ」を感じさせるとのクレームについては、もはや何が言いたいのか不明だ。インディ500には女性ドライバーも長年参戦しており、たとえばダニカ・パトリック選手などは、優勝候補に名を連ねたこともある。もし優勝していれば、やはりミルクを飲み干していたはずだ。今年も英国の女性ドライバー、キャサリン・レッグ選手が見事予選を通過し、決勝レース出場を決めている。

ちなみに、なぜインディ500の勝者がミルクを飲む習慣が生まれたのかと言うと、90年前の1933年の大会で2度目の優勝を飾ったルイス・メイヤー選手が、表彰台上でよく冷えたバターミルクを要求したことに由来している。メイヤー選手は1936年にも優勝を決めた際にも、やはりバターミルクを要求した。このときにコップではなくボトルを手渡されたことで、それ以後の勝者はボトルの牛乳を飲む慣習になった。

現在はインディアナ州酪農組合がスポンサーとしてインディ500に牛乳を提供しており、決勝レースに出場する30人の選手から事前に希望の乳脂肪割合や提供時の温度をアンケート調査し、最高の状態で渡されるのだそうだ。1993年にこのレースを制したエマーソン・フィッティパルディ選手は、自身の農園で製造したオレンジジュースをビクトリー・レーンに持ち込み、牛乳の代わりに飲んだが、この行為はスポンサーでもある酪農組合から難色を示され、組合から支給される分の賞金が剥奪されることとなった。

インディ500を開催するIMS側は、今回のクレームに対して反応を示していない。妙なクレームこそついたものの、第107回インディアナポリス500マイルレースには今年も日本から佐藤琢磨選手が参戦している。今年はトップチームからの参戦であり、自身3度目のインディ500優勝と牛乳を手にする姿が見られるかに注目したいところだ。

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