幹部にChatGPTが起こしたようなトラブルに対する耐性がないとの声も

アップル社内でもSiriの機能の低さは「嘲笑」、将来性には懐疑的との証言

Image:Piotr Swat/Shutterstock.com

アップルの音声アシスタントSiriはGoogleやアマゾンなど他社に遅れを取っており、その原因が「技術的なハードル」と「不格好なコード」の2つにあるとの指摘もあった。OpenAIがGPT-3.5およびChatGPTを公開してから半年も経たず台風の目となっているが、アップルはとうていそのスピード感に追いつけないというわけだ。

実際アップル社内でSiriや人工知能に取り組んでいるチームには混乱が生じており、「組織の機能不全と野心の欠如」に苦しめられていると、有料ニュースメディアThe Informationが報じている。

現在Siriチームは元Google幹部のジョン・ジャナンドレア氏が率いているが、大きな悩みの1つは優秀なスタッフが去って行くことだという。

先日アップルはChatGPTのようなAI基盤技術を開発中だとされていたが、その開発にあたった3人はもう社内にいないとのこと。彼らは大規模言語モデル(LLM)に取り組むにはGoogleの方が適していると考え、移籍してしまったそうだ。

この3人はGoogleのスンダー・ピチャイCEOから個人的に口説かれるほど強く望まれており、アップル側でもティム・クックCEOが説得しようとしたが失敗に終わったという。

アップル社内では、Siriの機能の低さや改善の遅さが「広く嘲笑されている」と述べられている。たとえばアップル初のAR/VRヘッドセット「Reality Pro」の開発チームもSiriに不満を抱き、音声コマンドでヘッドセットを制御するための「代替方法の開発」を検討したとのことだ。もっとも、最終的には断念したらしい。

Siriの改善が遅々として進まない理由の1つは、技術的な要因のほかに「トップ幹部」らがユーザーへの応答で大失態を犯すのを警戒していることだという。実際ChatGPTも平気で事実と反する回答を返したり、暴言と受け取れるテキストを生成するのも珍しくはないが、アップル製品としては許容しがたいのだろう。

そのためAIと機械学習チームのリーダーらは、全員参加の会議で間違いは必ず起こること、そして機械学習モデルの改善方法につきトップ幹部らに教育することが自分たちの仕事だと認めたという。またジャナンドレア氏らが率いる検索チームは、Siriの回答に対する懸念や問題をユーザーが報告できるボタンを設けることで、最終的にSiriのデザインチームと折り合いを付けたと伝えられている。

そうした事情もあり、元アップルのAI開発スタッフら(The Informationの取材対象)の多くは、同社がLLMに基づく次世代AI製品を開発できるかどうか疑わしいと語る。なぜなら、同社の上級リーダーは、ChatGPTや類似のサービス(GoogleのBard等)がここ数ヶ月で起こしたような、大ニュースとなるほどの失態にはあまり耐性があるように見えないからだ。

今や全世界の注目が集まるChatGPTもウソをつく、暴言を吐くことの他、他ユーザーの会話履歴やクレジットカード番号の一部が漏えいした可能性などのトラブルが次々と生じていた。しかしOpenAIはサービスを止めることなく、会話履歴オフの設定を追加したりとスピーディーな対処で乗り切ろうとしている。安心・安全が大きな商品価値であるアップルから見れば対極にあり、見習うことは難しいかもしれない。

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