【連載】西田宗千佳のネクストゲート 第37回

新世代有機ELからネット配信まで、今年のテレビはどう進化したか

西田宗千佳

※イメージ画像(Image:Luckies/Shutterstock.com)

今年のテレビも、そろそろ各社のフラッグシップが揃ってきて、傾向が見えやすくなってきた。有機EL(OLED)やミニLEDなど、使われているデバイスも変わってきたが、それ以外にも重要な点がある。

そこで今回は、シェアの高いハイエンドメーカーの製品やその特徴、そしてトレンドについて少し解説してみよう。なお、ソニーとREGZAは今春向けの製品が見えてきているものの、他については海外で発表済みの製品と技術から予想していく。

輝度向上のLG製「新OLED」に注目

現在のテレビでメインに使われているディスプレイデバイスは、ご存知のように液晶とOLED。これまでの一般論では、画質はOLEDの方が有利であり、大型のものをより安価で手に入れるには、液晶の方がいい。また、輝度の点ではOLEDより液晶の方が有利で、発色・コントラストではOLEDが有利、と言われてきた。

ただ、そのバランスはかなり微妙になってきている。双方技術的に競い合い、変わってきたからだ。たとえば液晶のコントラストと発色については、「ミニLED」とバックライトへの「量子ドット蛍光体層」の導入でかなり改善してきた。ただこの辺の傾向は、今年のモデルでは、2022年までとあまり変わっていない。

今年大きな変更があったのはOLEDの方だ。テレビ向けのOLEDについては、そのパネルのほとんどをLGディスプレイが生産している。昨年サムスンディスプレイが参入し、サムスン製テレビ(日本未発売)とソニー製テレビに採用されたが、今年はLGディスプレイが「METAテクノロジー」を搭載した新世代のディスプレイパネルで対抗する。

実は、LGディスプレイのテレビ向けOLEDは10周年だ。今年の新世代パネルは特に気合が入っており、「輝度向上」が特徴。ピーク輝度が最大150%向上し、液晶との差がかなり小さなものになった。色々な工夫が使われているが、特に面白いのは、微細なレンズを並べた「マイクロレンズアレイ」層があること。内部反射でロスしていた光をレンズで前に取り出して、結果的により輝度を高めることができている。

新世代のパネルは、LGとパナソニックが採用するとみられている。海外モデル(パナソニックの場合、米国向けのMZ2000シリーズ)はすでに発表済みだ。日本でも同様に、ハイエンドモデルでの導入が考えられる(なおパナソニックの海外発表ではマイクロレンズアレイ層があることには触れているが、パネルの供給元は明言していない)。ただし、REGZAはこのパネルを採用しておらず、ソニーのLGディスプレイ製パネル採用機でも使われていない模様だ。

CES 2023で展示された「MZ2000」

では、LGの新パネルを採用していないものはダメなのか……というと、そうではない。もちろん輝度という利点はあるものの、昨年と同じスペックの輝度でも、家庭での利用ではそこまで見劣りしない。2社の製品について「輝度がより高いハイエンド製品がある」と考える方がいいだろう。

REGZAは大型・ミニLEDのハイエンドモデルを訴求

液晶については、一般的なバックライトの製品もミニLEDの製品も、基本的には「サイズ」が重要といえる。日本でもテレビの大型化は進んでおり、55型が1つの基準となっている。そこで、OLEDは48型を経て55型から75型までが中心であり、液晶は55型から85型まで、もうワンランク大きいものが多くなっている。そして価格的には液晶の方が安くなる。

ここ数年で、テレビ台の形はだいぶ変わった。壁寄せタイプの設置が中心になり、結果として屋内に大きなテレビがあったとしても、邪魔になりにくくなってきた。そのため、リビングに設置できる限り大きいものを訴求する動きが活発になっているわけだ。

「Z970M」シリーズ

たとえばREGZAの場合、液晶のハイエンドである「Z870M」と「Z970M」が65型・75型・85型の設定で、かなり大きめの製品となっている。こうした大型のものになると、視野角や音場、視聴距離による見え方などの変化も重要になってくる。

そこで「Z970M」には、視野角を改善するシートやミリ波レーダーが搭載された。シートで斜めからの見え方を補正しつつ、テレビから見てどの距離・どの位置に人が座っているかをレーダーで確認した上で、音場の広がりや映像の超解像のかけ方なども変えている。

Image:REGZA

別の言い方をすれば、そのくらい特別なことをしたモデルを用意し、安価なモデルとの差別化を図ろうとしている、ということでもある。ミニLEDは各社が差別化要因としているが、単に搭載するだけで画質が上がるわけではない。バックライトコントロールによってコントラストは高まるが、輝度は上げにくくなるし、輝度が十分に高くないと色再現性も良くならない。その辺も含め、ミニLEDを「ちゃんと差別化された液晶テレビ」として訴求しようとしているのがREGZA、ということになる。

ソニーは「ゲームモード」に力を入れる

差別化という意味では、今年のソニーは「ゲーム」が面白い。同社にはPlayStationがあるわけで、ゲームに最適なテレビを作るのは当たり前に思えるが、これまでなかなか「ゲームに最適なテレビ」を作ってこなかった。2021年から「Perfect for PlayStation 5」を謳うモデルを用意するようになっているが、今年はそれが強化されている。

Image:SONY/YouTube

OLEDから液晶まで、2023年の新BRAVIAは全てに「ゲームメニュー」という専用のインターフェースが用意され、PS5との連携が高められている。実のところ、ゲーム専用メニューはLGエレクトロニクスなどが先に導入しているのだが、PS5と連携させる場合、ソニーの方がわかりやすい部分はある。

一方ソニーといえど、全ての製品で「4K・120Hz駆動」のゲームができるわけではない。比較的安価な液晶モデルである「X80L」「X75WL」は60Hzまでであり、また「X85L」も4K・120Hzの信号は受け取れるものの、水平・垂直双方で4Kフルの解像度は表示できない。120Hzまで視野に入れるのであれば、上位機種である「A80L」「X95L」「X90L」を選ぶ必要がある。

「X95L」シリーズ

画質向上の軸は「ネット配信」に

もう一つ、これは各社ともに共通してきていることだが、映像を考える際、高画質化の軸が「放送」から「配信」に移ってきている点にも留意しておきたい。

これには、今まで通り放送も高画質で見られるが、YouTubeからNetflixまで、多くの映像配信が視聴されるようになったことがある。そして、画質向上技術を導入した時の効果が特にYouTubeなどで顕著なことから、競争軸は「いかにネット配信も見やすい映像にするか」になっている。

Image:REGZA

この効果は大きく、日常スマホやPCで見ているYouTubeが、意外なほど高画質で楽しめるようになってきている。店頭などでぜひ、YouTubeのビデオクリップなどを見せてもらうことをおすすめする。画質面では、そこも含め、新しいテレビのトレンドを把握した上で購入を検討していただきたい。

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