連載】佐野正弘のITインサイト 第55回

岸田首相も注目の「IOWN」、過去の反省を生かして海外に広めることはできるのか

日本電信電話(NTT持株)が軸となって研究開発を進めている、光技術を軸とした新しいネットワーク基盤構想「IOWN」。3月16日には、そのIOWNの技術を活用したネットワークサービスとして、東日本電信電話・西日本電信電話(NTT東西)が「APN IOWN1.0」の提供を開始。それに伴ってか、NTTグループもIOWNのアピールに向けた活動を積極化しているようだ。

「IOWN Global Forum」の年次総会を大阪で実施

実際、先日4月25日には、NTT持株とソニー、米インテルによって設立された、IOWNの仕様や活用などに向けた取り組みを進めている「IOWN Global Forum」の年次総会が大阪府大阪市で実施されている。

大阪市で開催された「IOWN Global Forum」の年次総会。初めてリアルで開催されるとあって、会場には約400名の参加があったという

IOWN Global Forumには、様々な企業や団体が参加しており、参加する企業も通信会社やIT関連企業だけでなく、研究団体からネットワークを活用するユーザー企業まで幅広い。それゆえ、IOWN Global ForumではIOWNの技術仕様を決めるのはもちろんだが、それだけにとどまらず、IOWNの具体的なユースケース、要は使い道や使い方についての議論も進められているという。

年次総会は過去2回実施されているが、コロナ禍もあって、今回は実際にメンバーがリアルの場で会って議論できる初めての総会でもあったことから、会場にはおよそ400人、オンラインで参加したメンバーも含めればおよそ500人が参加していた。加えて、岸田文雄内閣総理大臣がビデオメッセージを寄せるなど、日本政府からも強い期待を抱いている様子を見て取ることができた。

総会には岸田首相がビデオメッセージを寄せており、日本政府もIOWN構想に強い期待を抱いている様子がうかがえる

IOWNを主導しているのがNTTグループであることは確かだが、そもそもなぜ自社単独ではなく、IOWN Global Forumを立ち上げ、多くの企業の参加を募って技術開発などを進めるに至ったのだろうか。NTT持株の代表取締役副社長であり、IOWN Global ForumのPresident and Chairpersonを務める川添雄彦氏によると、そこにはこれまで取り組んできた、NTTグループのネットワーク技術やサービスに対する反省があるという。

記者の質問に答えるNTT持株の川添氏

NTTグループはこれまで、自社で責任を持ち技術からサービスまで全てを完結させるかたちでネットワークサービスを提供し、国内では成功を収めてきた。だが、逆に完成されたサービスに作り上げ過ぎてしまったことが、海外に展開する上で弱みになってしまっていたという。

その事例としてよく挙げられるのが、日本で大成功するも海外展開がうまくいかなかったNTTドコモの「iモード」なのだが、「ISDN」や「NGN」など、NTTグループが主導して開発がなされたものの、海外に普及させられなかった事例は他にもいくつかある。そうした過去の反省を踏まえ、IOWNではあえて自社で完成したものを作るのではなく、IOWN Global Forumに国内外の多くの企業や団体に参加してもらい、協力しながら作り上げていくことで海外への普及につなげていきたい考えのようだ。

そうした意味で言えば、既に100を超える企業などがIOWN Global Forumに参加していることは、IOWNを普及させていく上でメリットとなる。そこにはもちろん、光技術をベースとしたIOWNの構想が持つ特徴やメリットが、参加する企業や団体にとって魅力的に映っているからこそだろう。

例えば、競合ながらIOWN Global Forumへ参加するに至った、KDDIの技術統括本部 技術戦略本部長である大谷朋広氏は、参加理由として同社が実現したい「デジタルツイン」に、IOWNがもたらすメリットが大きいことを挙げている。デジタルツインは、実空間の情報を収集して仮想空間にその環境を再現し、シミュレーションした結果を現実世界に反映させるというものだが、その実現には大容量かつ低遅延の通信が必要になる。

そしてIOWNは、光の技術をベースにしていることから、大容量・低遅延の通信を低消費電力で実現できるため、環境への配慮も両立できる。そうしたメリットがKDDIにとっても生きるからこそ、参加を決めたとのことだ。

IOWN Global Forumの総会に参加したKDDIの大谷氏。NTTが主導するIOWN Global ForumにKDDIが参加したことには大きな驚きがあった

ただ、IOWN Global Forumで多くの企業などを募りオープンな姿勢を取る方針は、IOWNを世界的に広める上では有効に働くだろうが、特定の企業が技術や利益を独占できなくなることも意味する。それゆえNTTグループ、さらに言えば日本企業が、IOWNでどうやって世界で稼げるようになるのか? という点が見えづらいのも確かだ。

この点について川添氏は、IOWNによって日本企業が貢献できる1つの領域があるとしている。その1つは「光電融合」だ。光電融合は、従来電子技術が用いられていたコンピューターや半導体の内部までも、全て光ベースの技術に置き換えるというもので、IOWN構想を実現する核となる技術。光電融合に対応した半導体の開発の多くを日本企業が担えるようになれば、大きなビジネスになると見ているようだ。

そしてもう1つは、IOWNの「ギャランティード」、要は通信速度や品質を保証する仕組みである。APN IOWN 1.0で遅延の小ささが既に示されているように、IOWNは品質を保証できる仕組みに重点を置いている。これはある意味、電話から発展したNTTらしい技術ともいえ、ベストエフォート、つまり上限まで最大限努力した速度で通信する、現在主流のIP(インターネットプロトコル)ベースのネットワークとは、思想が大きく異なるものだ。

通信品質が保証されたネットワークは、例えば遠隔医療や自動運転など、ミッションクリティカルな用途では必要不可欠と考えられる。ネットワークの整備と同時に、ギャランティードなIOWNの価値を生かしたサービスや、ビジネスを日本企業が開拓することで、世界に向けた価値を生み出せると川添氏は考えているようだ。

そこにはIPネットワーク、ひいてはインターネット時代の反省もあるという。「インターネットができた後に、GAFAMのようなハイパースケーラーが出てくるという創造力が日本には欠けていた。それで多くのビジネスを失ったと思っている」と川添氏は話しており、新しいインフラを提供するなかではその上で、提供されるサービスの開発も重要だと見ており、IOWN Global Forumでユースケースの開拓に踏み込んでいることが、その一端を示しているといえよう。

NTT東西によるサービスが早々に始まり、IOWN Global Forum参加企業も広がるなど、順調なスタートを切っているように見えるIOWNだが、世界に普及させることを見据えると課題は少なくない。中でも、IOWN Global Forumの状況を見るに、参加する企業のおよそ半数を日本の企業や団体が占めており、海外企業の参加がまだ少ないことは大きな課題といえるだろう。

特に、NTTグループと同じ通信企業の参加状況を見ると、中華電信(台湾)やSKテレコム(韓国)、テレフォニカ(スペイン)などアジアや欧州の企業はいくつか参加している一方、米国の通信会社が参加していないのは気になる。川添氏は「北米のキャリアにはやらないかと何度も話をしてきた」というが、参加には至っていないようだ。

IOWN Global Forumの参加企業・団体は118に上るが、およそ半数は日本企業が占めているのが現状だ

米国は、IPベースのネットワークで世界を主導してきたこともあり、他国が主導する技術でそれが覆されることへの警戒感は強いと考えられる。川添氏は、大手IT企業が現状のビジネスを主導している現状を考慮すると、IOWN Global Forumに通信企業が参加することの重要性は、以前ほど高くないと見ているようだ。

しかしながら、基盤となるネットワークを整備するのはやはり通信会社だけに、通信会社の支持を得ることはIOWNの構想を広める上でも、やはり重要なのではないかと筆者は感じている。

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