作業ロボットやセンサーデバイスの改善に繋がるかも

ナノワイヤーネットワークは、ヒトの脳と同じように学習・記憶できるという研究

Image:The University of Sydney

シドニー大学をはじめとする国際的な研究チームが、人間の脳を模倣したナノワイヤーネットワークが、人間の脳のように短期記憶(学習)と長期記憶の両方を示せることを実証したと発表した。

ナノテクノロジーの一種であるナノワイヤーネットワーク(NWN)は、肉眼では見えないほど微細な、導電性の高い銀ワイヤーでできたメッシュをプラスチック材料で覆ったもの。ナノワイヤーがニューロンだとすれば、ナノワイヤーが互いに接続している部分はヒトの脳におけるシナプスと考えることができ、NWNは合成ニューラル ネットワークを形成していると言える。

これを踏まえ研究チームは、機械学習タスクを実装する代わりに、それをさらに一歩進めてナノワイヤーネットワークがある種の認知機能を示すことを実証しようとした。

Image:The University of Sydney

NWNが認知機能をどの程度示しているかを調べるために、「nバック課題試験」と呼ばれる、人間の作業記憶を評価するためのテストを使った実験を行った。

nバック課題試験とは、被験者に一連の文字または図形を続けて見せ、n枚前と同じ文字や図形が現れたときに被験者は応答を返すというもの。なお、ヒトの場合のnバック平均スコアは7、つまりヒトは7枚前に出現した文字や図形までは認識できるということだ。

このnバック課題試験をNWNで使えるようなサブタスクに変更して実験を行った。ネットワークに何かを見せることはできないので、NWNの端部の電極にかける電圧を操作して、信号が伝わる経路を無理やり自分たちの望むところに合わせるようにしたということだ。すると、NWNの経路を繰り返し指示することで、その記憶キャパシティと精度が向上することがわかったと述べている。

またその実装では、記憶は非常に高い精度を持ち、時間が経っても精度が落ちることはなかった。これは経路を繰り返し指定し強化することで、我々の望む場所に向けて出力する経路が記憶として留まるようになることを示唆しているという。

実際に、NWNに改良したnバック課題試験をしてみたところ、ネットワークはヒトの記憶と同じように、7つ前までの電気信号と、記憶した経路を一致させることができた。そして、NWNを常に強化し続ければ、記憶は固定され、強化が不要になるポイントに到達するという。

さらに、これはヒトの長期記憶と短期記憶の違いのようなものだとし「何かを長期間覚えさせたいときは、そのために脳を訓練し続ける必要がある。そうしなければ時間と共に忘れて消えてしまうだろう」と説明した。

この研究は将来的にNWNがヒトと同じように機能し、迅速な意思決定ができる作業ロボットやセンサーデバイスの改善に使えるようになる可能性があることを示している。

「通常は人間の脳に関連付けられている高次認知機能を、非生物学的ハードウェアでエミュレートできることを発見した」とし、「現在の研究は、非生物学的ハードウェアシステムで脳のような学習と記憶を複製する道を開き、脳のような知能の根底にある性質が物理的である可能性があることを示唆している」と結んだ。

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