イヤホンと腕時計型デバイスで構成
脳卒中の回復促す「スマート イヤピース」。埋め込み不要で負担軽減
スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)の研究者が、脳卒中を起こした患者の身体機能回復に役立つ「スマートイヤーピース」の開発を行っている。このウェアラブルシステムは、モーションセンサーを内蔵する腕時計のようなデバイスと、神経を刺激してその回路の再接続を助けるイヤホン部で構成されている。
脳卒中を起こしてしまうと、脳内の血流に支障が起きることでニューロンが死滅し、後遺症として身体の一部が思うように動かせなくなり、歩行や会話、物を手に掴むといったことが難しくなることがある。
そして、後遺症に対する治療は、ニューロンの損傷による影響の最小化や、可能な限り回復させることを考えて検討される。この治療で重要になるのは、元の身体機能を回復するのに、脳がどれぐらいうまく神経回路の再配線をできるかということだ。研究分野では、薬の開発のほか迷走神経刺激療法(VNS)と呼ばれる手法を用いる研究が増えている。
VNSは、てんかん治療からうつ病、慢性的な消化不良、関節リウマチ、そして身体の老化そのものに対する治療への効果が研究されている。しかし、この治療ではよく、神経刺激を行う小型のデバイスを外科的処置によって埋め込むため、かなり患者への負担も大きい。
ETHZの研究でも、心拍数や食物の消化といった自律的な身体機能を司る副交感神経系に、微弱な電気パルスによる刺激を加えるのだが、システムを開発するViskaitis氏によると、この研究で使うデバイスは、イヤホンとモーショントラッキングウォッチで構成されているという。取り外し可能なウェアラブルデバイスにすることで、はるかに扱いやすくなっているというわけだ。
このデバイスでは、患者の手足の動作を検知するとイヤホン部に神経刺激を与えるよう指示が送られる。そして、刺激を通じて脳の神経を訓練し、脳卒中による損傷で途切れている信号伝達を実行する新しい方法作り出させようとする。後遺症のある手、または足に装着した腕時計型デバイスが、正常に動かすことができたときにイヤホンに指示を出し、イヤホンからの電気パルスで神経回路の強化をサポートするということだ。
このスマートイヤーピースを使い続ければ、時間が経つにつれて脳の神経回路が繰り返し刺激され、患者はより効率的かつ迅速に運動機能を回復できることが期待できる。
また、医師が常に監督せずとも、患者自身で治療を続けることができるのも大きな利点だ。使用を通じて取得したデータはスマートフォンに保存することが可能で、それを理学療法士に送って分析したり、さらにはリモートから監視してもらうこともできる。
研究者らは、このデバイスの臨床試験を計画しているが、その前にもう少し健康な被験者を対象として実験を繰り返す予定だとしている。
- Source: ETH Zürich
- via: Interesting Engineering New Atlas