“右フック犬”みたいなのはまだいない?

放射能汚染のチェルノブイリ周辺、野犬の「進化が加速」している可能性

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1986年に発生した事故により、チェルノブイリ(ウクライナ語:チョルノービリ)原発の周辺地域は、強い放射能汚染にみまわれた。その汚染は今も続いているが、野犬などの動物はこの地域での生活を続けており、最新の調査では、この近辺の動物の一部は他の動物よりも進化が早まっている可能性があるという。

今月、査読済み論文を扱う科学ジャーナルScience Advancesに掲載された研究報告によると、チョルノービリの立ち入り禁止区域(CEZ)の内側で発見された野良犬300頭の遺伝子を検査したところ、CEZから10マイル離れたところに住む犬と比べて「少なくとも10種類の重要な変化」が見つかったとのことだ。

その「違い」というのが、CEZ内の犬の遺伝子には放射線が影響している可能性が高いということ。具体的にどの部分の遺伝子でどんな影響が予想されるのかなどは報告されていないが、放射線の影響で他よりも変化が多く、急速に起こっている可能性が考えられるという。

ただし、他の要因で変化が起こっている可能性も除外することはできない。研究者はこの変化を引き起こしている原因について、すぐに判断することはできないと慎重な見解を示し、より広範な研究が必要だと述べている。とはいえ、変化の原因がわかれば、動物が長期間にわたって放射線に暴露した場合に、何が起こるかを予想するための知見が得られるそうだ。

原発事故が起こった当初、放出された放射能で強く汚染されたCEZ内は、数十年以上にわたって草木も生えないとの予想もあった。実際、事故から数年後の1990年代前半には、木々が赤く枯れ、鳥や哺乳類、昆虫といった動物の生息数に減少がみられた。しかし、その後上空からの目視で行われた調査などでは、鹿やイノシシといった哺乳類の生息数には大きな変化はなく、一部の種ではむしろ増加していると報告された。現在も汚染は続いてはいるものの、そこには緑の草木が繁茂し、最近では犬などの動物の数が大きく増加したとの報告や、生態系の多様性が増しているとの報告もある。

今回の調査はあくまで遺伝子レベルの変化にフォーカスしており、そこに生活する動物たちの健康状態までは調べていない。事故後、事態の収拾や復旧作業にあたった作業員たちは深刻な放射能汚染によって、白内障やガン、白血病などの発症率が一般的な割合よりも非常に高いといわれている。動物たちも、生息数を減らすほどではなくとも、何らかの病に冒されている可能性はある。あるいは、世代が進むにつれ遺伝子的に放射線に影響されにくかったり、放射線に関連する病気を発症しにくい「進化」した体質をもつ固体が生き残り、増えてきた可能性も、ひょっとするとあるのかもしれない。