【連載】佐野正弘のITインサイト 第52回
「Samsung」ロゴのGalaxyシリーズ新機種、戦略転換は日本市場に受け入れられるか
韓国サムスン電子は2023年4月6日、Galaxyシリーズの新スマートフォン「Galaxy S23」シリーズなどの国内販売を発表した。同社のフラグシップモデル「Galaxy S」シリーズの最新機種をこの時期に投入するというのは恒例ではあるのだが、その内容を見ると戦略に変化が出てきている様子がうかがえる。
まずは改めて、国内に投入される新機種について簡単に触れておこう。1つはGalaxy S23シリーズのスタンダードモデルで画面サイズが6.1インチとコンパクトなサイズ感の「Galaxy S23」であり、もう1つは画面サイズが6.8インチで最上位モデルの「Galaxy S23 Ultra」である。海外で販売されている大画面モデルの「Galaxy S23+」は投入されず、今回も日本では2機種展開となるようだ。
Galaxy S23シリーズで共通している特徴は性能面で、米クアルコムのハイエンド向けチップセット「Snapdragon 8 Gen 2 Moble Platform」をGalaxyシリーズ専用により高速化した、「Snapdragon 8 Gen 2 Moble Platform for Galaxy」として搭載。動作が非常に重いAAAクラスのゲームも快適に動作する性能を備えながら、冷却性能やバッテリーの持続時間に力を入れゲームプレイ時のパフォーマンス低下を防いでいるのがポイントの1つとなっている。
さらに最上位のGalaxy S23 Ultraは、背面に2億画素のイメージセンサーを搭載したカメラなど4つのカメラを搭載。高い画素数を生かした高精細な写真の撮影や、暗所をより明るく撮影できることに非常に力が入れられており、カメラ性能の強化も大きなポイントといえるだろう。
加えてGalaxy S23 Ultraは、リサイクル素材を採用した部品の数を一層増やすなどサステナビリティにも引き続き力が入れられているし、前機種「Galaxy S22 Ultra」で搭載された「Sペン」による操作にも引き続き対応。一方でデザインはGalaxy S22 Ultraと大きく変わっている訳ではないが、Galaxy S23がGalaxy S23 Ultraのデザインを踏襲したものに変更されシリーズ間で統一が図られるようになった。
そうしたことから全体的に見れば「Galaxy S22」シリーズのマイナーチェンジという印象を受けるGalaxy S23シリーズだが、国内向けの施策として従来のNTTドコモとKDDIのauブランドだけでなく、Galaxy S23のみではあるが新たに楽天モバイルからの販売がなされることが決定。さらにauからはGalaxy S23 Ultraの最上位モデルである1TBモデルも、オンライン限定での販売がなされるそうで、販路拡大に加えヘビーユーザーにも応えようとしている姿勢を見て取ることができる。
またGalaxy S23シリーズに加えもう1つ、ミドルクラスの「Galaxy A54 5G」を国内投入することも同時に発表。こちらは従来と同様にNTTドコモとauから販売されるようだ。
一連の発表内容を見ると、その内容は従来のGalaxyシリーズ新機種と大きく変わっていないように見えるが、実は今回の新機種から劇的に変わっている部分が1つある。それは本体のロゴが従来の「Galaxy」から「Samsung」に変わったことだ。
これは去る2023年2月28日にサムスン電子が発表した内容が影響している。それは同社のオンラインショップ「Samsungオンラインショップ」を開設するとともに、企業ブランドの表記と呼称を「Galaxy」から「Samsung」に変えるというものだ。
同社は日本でこれまで、過去の韓国企業に対するイメージなどもあってかサムスン電子の名前をあえて伏せ、「Galaxy」を製品名だけでなく企業自体を示すブランドとして用いてきた。長年貫いてきたその姿勢を2023年に大きく転換するに至った背景には、韓国企業に対するイメージの変化に加えもう1つ、同社がスマートフォンを軸として、ウェアラブルデバイスやタブレットなど、周辺機器の販売を強化するエコシステム重視の戦略を取るようになったことが考えられる。
日本でも政府によるスマートフォンの値引き規制でハイエンドモデルの販売が厳しくなったことを受けてか、2022年には「Galaxy Tab S8」シリーズでタブレットの販売を復活させるなど、従来のスマートフォン一本足打法というべき戦略から、エコシステム重視の戦略へと徐々にシフトする様子を見せている。そしてスマートフォン以外のデバイスはサムスン電子自身で販売・サポートを担うことから、メーカーとしての責任をより明確にするべく企業ブランドを変更するに至ったといえよう。
ただ一方で、サムスン電子は携帯電話会社からのスマートフォン販売に依存する割合が最も高く、今回のスマートフォン新製品も全て携帯電話会社から販売する形が取られている。一方で2022年の同時期にはオープン市場向けの「Galaxy M23 5G」を独自に販売することを発表したが、2023年はそれに続くオープン市場向けスマートフォンの新機種投入は発表されていない。
そうした様子を見るに、依然多くの顧客と強力な販売力を持つ携帯電話会社からの販売に大きな比重を置き、自社独自の販路開拓に踏み切るには至っていない様子が見えてくる。だが競合となる米アップルの様子を見ると、スマートフォン値引き規制の影響を受けてか最近は携帯各社からの販路だけでなく、iPhoneを家電量販店やECサイトでも販売するなどオープン市場の開拓に力を注ぐようになっている。
なかでも驚きがあったのが、2023年3月に「認定整備済製品」でiPhoneの取り扱いを国内で開始したことだ。これは返品された製品などを、部品交換するなどして再整備して販売しているものなのだが、日本ではこれまでMacやiPadなどの認定整備済製品は販売されてきたものの、iPhoneの認定整備済製品だけは販売がなされてこなかったのだ。
だがスマートフォンの値引き規制が年々厳しくなり、日本で高額なiPhoneの購入がしづらくなる今後を見越してか、ようやくiPhoneの認定整備済製品の取り扱いを開始したようだ。このことは、アップルが携帯電話会社への依存を弱めiPhoneの販売を独自で拡大する戦略に大きく転換した証と見ることができよう。
そこまで踏み切った戦略を取ることができるのは、もちろんiPhoneが国内で圧倒的なシェアを獲得しているからこそでもある。それだけに国内でのシェアがより小さいサムスン電子が、ブランド名を変更した今後携帯各社からの販路に依存した戦略をどこまで転換できるかという点は、同社の日本市場における今後を考える上でも重要なポイントとなってくるだろう。