確かに歯が常に見える必要性は少ないかも

ティラノサウルスはもっと優しい顔? 牙を隠す唇があったとの研究報告

Image:Mark Witton

数多くの種類がある恐竜のなかでもダントツの人気、認知度を誇るのがティラノサウルス。この肉食大型獣脚類の凶暴な印象は、映画『ジュラシック・パーク』に描かれるように、クワッと開いた口にズラリと並ぶ巨大な牙によってさらに引き立てられる。

ところが、英ポーツマス大学をはじめとした国際的なチームからなる最新の研究によると、実はティラノサウルスの素顔はもっと柔和だった可能性があることがわかったという。チームは唇のある爬虫類と、唇のない爬虫類の顎の形状、歯の構造、歯の摩耗パターンを調べ、ティラノサウルスを含む獣脚類の口が、ワニよりもむしろトカゲに似ていることを発見した。

米アラバマ州にあるオーバーン大学の古生物学助教授トーマス・カレン氏は「これまで、肉食恐竜の歯は唇で覆うには大きすぎると言われてきたが、われわれの研究では、実際にはその歯はそれほどには大きくないことを示している」とし、「巨大と思えるティラノサウルスの歯でさえ、頭蓋骨のサイズと比べてみれば、現代のトカゲの歯と似たような比率であり、それらが大きすぎて唇から露出していたという考えには合致しない」と述べている。

そして研究者らによると、ティラノサウルスの口の構造はトゥアタラに似ているという。和名はムカシトカゲといい、原始的な姿を現代に残す爬虫類だ。研究の共著者でカナダ・ロイヤルBC博物館の古生物学研究者、デレク・ラーソン氏は「最小のドワーフモニターからコモドドラゴンまで、歯はほとんど同じように機能する。そのため、ドワーフモニターは密接に関連していなくても、この機能の類似性に基づいて、獣脚類恐竜のような絶滅した動物と非常にわかりやすく比較できる」と述べた。

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また、獣脚類の顎の骨にみられる神経と血管が通っていたと見られる穴にも、ワニよりもトカゲのそれに近い特徴があったとのこと。共著者のひとりでカナ・マニトバ大学のカースティン・ブリンク氏は「歯が唇で覆われていなければ、歯が乾燥してしまい、何かを食べたり他の動物と戦ったりする際に損傷を受ける可能性がある」と述べ、「一般的な哺乳類に比べて恐竜の歯はエナメル質の層が非常に薄い」ため、露出している状態では都合が悪いと指摘している。

実際のところ、学術的には「19世紀に恐竜の修復が始まって以来、恐竜の復元アーティストらはティラノサウルスの唇を厚くしたり、また薄くしたりと定まった認識がなかったが、1980~90年代にかけて、唇がない、牙の露出した恐竜が描かれることがより顕著になった」と説明。現在常識的に考えられているような、常に牙が大きく露出したティラノサウルスが定着したのはその後であり、『ジュラシック・パーク』シリーズや『ウォーキング with ダイナソー』といった作品からの影響が根付いたものだとした。

また研究共著者のひとり、ポーツマス大学のマーク・ウィットン博士は「不思議なことに、この外観的な認識の変化を引き起こすような、専門家による研究や発見はなかった。おそらく、科学的思考の変化ではなく、新しく猛烈に見える美学への好みを反映していたのだろう」「これは、象徴的なジュラシック・パークのティラノサウルス レックスを含む、私たちのお気に入りの恐竜について、描写の多くが正しくないことを意味する」と述べた。

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