「ナーフ銃で撃たれたくらい」しか痛くない
空気銃で薬品を皮下に打ち込む「痛くない注射」
子どもの頃、だれもが好きではなかったであろうイベントが予防接種だろう。小・中学校で行われたインフルエンザの集団接種を経験した世代なら、友だちの手前、注射針が腕に近づくのを見ながら必死で平気そうな顔を取り繕い、「ぜんぜん痛くない」とうそぶいたことを思い出す人もいるかもしれない。1987年の法改正によって、学校での集団接種は保護者が希望する者のみに変更され、その後行われなくなった。
一方、針を使わず圧力によって薬液を皮膚下に注入するジェット注射器は1960年代から使われている。ジェット注射器は針がないため、接種の際恐怖感は少ないかもしれないが、やはり圧力で皮膚をわずかに切り開いて薬液を注入するため、どうしても多少の痛みは避けることができない。
もっと現代的で痛みの少ない注射器具としては、「遺伝子銃」と呼ばれるものもある。これは圧縮ガスを用い、タンパク質やその他の生体材料を封入した金やタングステンの微粒子を、皮膚に打ち込む。ただ、注射する薬剤をコーティングするのに金やタングステンといった割高な素材が必要となり、またそのような材質は注入した生化学的薬剤の分解を早める可能性もあった。
こうした中、テキサス大学ダラス校の研究者らが、痛みの少ない注射に関する新しい研究を発表した。研究チームが着目したのは、ZIF-8(ゼオライト-イミダゾラート構造体)と呼ばれる有機金属構造体(MOF)材料。この材料は金やタングステンに比べてはるかに安価で、チームは「MOF-Jet」と呼ばれる遺伝子銃の改良バージョンを使用して皮膚に打ち込むと、微粒子が生体物質を含む薬剤を保護しつつ皮膚下に注入できることを確認したという。そして、注射時の痛みに関しても、オモチャの「ナーフガン」で撃たれた程度だそうだ。
またこの技術では、ZIF-8に粉末の医薬品を封入して注射することもできる。粉末なら、注射針で注入する液体薬剤のように冷蔵して保管する必要もない。
さらに、薬剤を打ち込むのに使うガスを使い分け、薬剤の放出時間を変えることもできる。たとえば、CO2を使って薬剤を注入する場合は、打ち込んだ直後に細胞内の水分と反応して炭酸が発生してZIF-8の分解を早め、効き目を早く引き出すことが可能になる。一方で、圧縮空気で薬剤を打ち込めば、ZIF-8はゆっくり4~5日かけて分解される。
研究チームはZIF-8でコーティングした遺伝子材料をタマネギの細胞に送達する実験や、ZIF-8に包まれたタンパク質剤をマウスに送達する実験にも成功したという。そして将来的には、この研究を悪性の皮膚病であるメラノーマの治療法として活用できる可能性があると述べている。
- Source: American Chemical Society
- via: Interesting Engineering