発射台が壊れないか心配

SpaceX、エンジン33基「Super Heavy」ブースターで地上燃焼試験。2基停止も「軌道到達に十分」

Image:SpaceX

SpaceXが33基のエンジンを搭載する「Super Heavy」ブースターの地上燃焼試験を実施した。このエンジン数は、かつて旧ソビエト連邦が有人月旅行のために計画し、中止となったロケット「N-1」の30基を上回るものだ。

地上燃焼試験とは、発射台に固定したロケットのブースターに点火して数秒間、最大出力での燃焼状態を確認するプロセスで、ロケットの飛行試験前に行う重要な項目のひとつだ。Super Heavyは同社の次世代宇宙船「Starship」のブースターとして、いつの日か人類を火星に送り届けることを目的の一つとして開発されている。

2月8日にワシントンDCで開催された宇宙商業カンファレンスの場で、SpaceX社長のグウィン・ショットウェル氏は、9日はSpaceXにとって非常に「大きな日」になるだろうと述べた。だが、コメントの最後には「本当の目標は発射台を爆破してしまわないこと、それで充分に成功なのです」と付け加えていた。

Starshipに関しては、2020~2021年にかけて急ピッチでそのプロトタイプの開発が進められ、テキサス州南部にあるSpaceXの施設から見える、次々と形を成す “巨大な銀色のプロトタイプ” が連日話題にもなっていた。しかし最近は、そうした建造の様子があまり話題に上ることはなく、またSpaceXもFalconロケットの打ち上げペースを過去最高に高める一方で、Starship関連の話題はほとんど出てきていなかった。

その理由は、この大型ロケットとそれを推進するブースターを支える巨大な発射台(兼キャッチタワー)や、非常に多くの燃料の補給をサポートする地上施設の建設を進めていたからだ。この打ち上げ施設の建造費に10億ドル以上が投下されたとも言われていることから、SpaceXとしてはこの施設を燃焼試験や飛行試験で壊してしまうのは、絶対に避けたいところだろう。ショットウェル氏の発言も、あながちジョークではなかったかもしれない。

今回の実験が開始されたのは、9日午後3時15分(現地時間)ごろ。Super HeavyのRaptorエンジンは33基すべてが点火されたものの、イーロン・マスク氏によると、そのうち1基は点火直前にテストチームによってカットオフされ、さらに燃焼を開始してからもう1基が自動的に停止したという。それでも31基のエンジンは、マスク氏いわく「軌道到達に十分」な推力を発揮したとのことだ。

これが実験として成功なのか否か明確な発言はないが、SpaceXはテストがうまくいけば、3月後半~4月前半の軌道への試験飛行に向けて、計画を進めると述べている。ただ、そのスケジュールは米連邦航空局(FAA)のライセンス発給などにも依存するため、ショットウェル氏は「ライセンスが得られた時点ですぐに飛行する準備が整う」と述べている。

SpaceXの民間宇宙開発担当ディレクターであるニック・カミングス氏は、2月9日に開催されたFAAのカンファレンスで、Starshipの最初の商用ミッションではStarlink衛星を打ち上げると述べている。ただしこの打上げは、アルテミス3号の計画におけるStarshipの月着陸船バージョン(HLS)の開発にも関わる要素があるとし「われわれが行っていることは、HLSミッションをサポートするのに必要な信頼性と再利用性能を高めることであり、さらには月、そして火星への人類の進出」も見据えているとしている。

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