「ぺんぺん草も生えない」わけじゃなかった

「月の土で地球の植物が育つ」との研究成果。将来の入植へ大きな前進

Image:University of Florida

NASAのアルテミス計画をはじめ、現在世界の宇宙機関は、月面への有人基地の建設を目指している。

だが月面に人が常駐するには、食料を調達する方法を確立しておかなければならない。まだ月であれば宇宙ステーションのように定期的に物資を届けることもできるかもしれないが、火星に人類が入植するようになれば、現地での食料調達は必須になるはずだ。

科学者らは、かつてアポロ計画で持ち帰られた月の土壌、レゴリスを用いて、地球上の植物がそこで成長できるかを確認する実験を行った。

植えたばかりのプレートを見守る研究者たち(Image:University of Florida)

その結果、シロイヌナズナ(ぺんぺん草の仲間)と呼ばれる植物が芽吹き、月面でも地球上の植物が成長できることが初めて確認された。つまり、月面の荒れた大地は痩せこけてはいるものの、「ぺんぺん草も生えない」ほどではないということだ。

5月12日にNatureのcommunications biologyに掲載されたこの実験は、研究者が実験用のレゴリス提供を申請してから15年を経てようやく承認され、いまから18か月前に開始された。

もともとはアポロ17号が持ち帰ったレゴリスを4グラム提供するよう求められていたが、NASAは研究のために複数のミッションで採取されたレゴリスを提供するほうが科学的価値が深まると考え、11号、12号、17号で収集された合計12グラムが提供されたとのこと。

研究者らはこれらのレゴリスを指先ほどの大きさの鉢に入れ、またレゴリスをシミュレートした土壌、地球上の極限環境と呼ばれる場所の土壌も同様に用意して、そこに養分を含む液を垂らし、シロイヌナズナの種をまいた。

研究者らは、レゴリスで種が芽吹くことには懐疑的だったが、実際やってみると、ほぼすべてで発芽するという結果が得られた。「われわれはこの結果を予想していなかったので驚いた。それは、月の土壌が植物の発芽に関与するホルモンや条件的なシグナルを妨害しなかったことを示した」と研究者は述べている。

シロイヌナズナがぶじに芽吹いた!(Image:University of Florida)

ただしレゴリスで育った植物は生長が遅く、塩、金属、活性酸素種などに晒された植物にみられるストレスの兆候を示した。

さらにその植物の遺伝子を調べたところ「主にストレスに関連する1000を超える遺伝子を発現し、月の土壌環境をストレスの多いものとして認識していると推測できる」状態だったのこと。

研究者らはこれらのデータをもとにして「植物、特に作物が、健康にほとんど影響を与えずに月の土壌で成長できるレベルまでストレス応答を改善することに役立てたい」と述べている。

また、研究者らはもし月の環境で植物を育てることができた場合、月の土壌をどのように変化させられるか、さらに月の土壌で植物を育てる最も効率的な方法も調べたいとしている。

ちなみに、シロイヌナズナはぺんぺん草の仲間だが、植物としてはブロッコリー、ケール、カブ、カリフラワーと同じ系統であり、今回の研究から、レゴリスでそれらの食用植物を育てられる可能性が高まったと言えそうだ。

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